ブレークポイントでの結果は何を表すのか?(ATP&WTA 2021)
テニスの試合を見ていて、盛り上がるシーンの一つにブレークポイントがあります。
ウィンブルドンでのビッグサーバー同士の戦いでもない限り、相手よりも多くブレークした選手が勝つのがテニスというスポーツだと思います。
そうなると必然的にブレークポイントは選手たちが集中するポイントとなりがちですし、見る側としても手に汗握ることが多い場面です。
そこで、ブレークポイントで良い結果を出せる=強いという等式が成り立つのでは?と思い、少し調べてみることにしました。
具体的には、今年のATP&WTAのそれぞれランキングトップ100の選手たちの2021シーズンのブレークポイントでの結果を調べて、通常時との差やランキングとの関係を見ていきたいと思います。
○データについて
今回主に使うデータはATPとWTAに載っているブレークポイント獲得率(以下「A」とも表す)です。
この(A)ブレークポイント獲得率とその他のリターンゲームでのポイント獲得率を比較することでブレークポイントでの結果を考えていきたいと思います。
その他のリターンゲームでのポイント獲得率ですが、今回は、
1stリターンポイント獲得率×トップ100の1stサーブ成功率+2ndリターンポイント獲得率×(1-トップ100の1stサーブ成功率)
=その他のリターンゲームでのポイント獲得率(以下「理論値」及び「B」とも表す)
と求めることにしました。
リターンポイント獲得率自体はATP&WTAのHPにも記載されていますが、今季の対戦相手のサーブ成功率が偏っている場合も考えて上記の計算を行いました。
(結果としてほぼほぼ変わらない数値になったのでやる意味があったかは疑問です笑)
注意点としては公式Statsのリターンポイント獲得率の中にはブレークポイントの場合も含まれてしまっているので、完全に正確な計算は出来ていません。
全体のリターンポイントの中におけるブレークポイントの割合は少数であるため大きな影響はないと思われますが、その点留意ください。
それでは結果について見てみましょう。
○ATPにおけるブレークポイントの結果
まずはATPにおいてブレークポイントでの結果が良かったと思われる選手、悪かったと思われる選手をそれぞれ上位10人ずつ載せてみます。
()内は世界ランク(2021.11.28時点)です。
上記の「(A)プレークポイント獲得率ー(B)理論値」の値がブレークポイント時に通常よりもどのように結果を出したかを表していると考えられます。
プラスになれば通常時よりも良い結果となっており、マイナスならその逆ということです。
ちなみにATPトップ100の選手たちの平均の(A-B)の値の平均は2.17でした。
つまり、ブレークポイントでは通常のリターンポイントよりも約2.17%多くリターン側がポイントを獲得しているということになります。
一般的にブレークポイントではサーバー側にプレッシャーがかかると考えられるため、リターン側のポイント獲得率が上昇するのは感覚的にも適合するところです。
その中で上記のように(A-B)がマイナスになってしまう選手達は他の選手たちに比べてかなりアドバンテージを失っていたと考えることができそうです。
次にWTAの結果についても見てみたいと思います。
ちなみにWTAトップ100の選手たちの平均の(A-B)の値の平均は1.56でした。
ATPの2.17に比べるとやや控えめですが、それでもブレークポイントにおいてはリターン側が有利になっていると言えそうです。
○結果を考える
さて、上記の表をどう考えたら良いでしょうか。
まず気づくのは、この表の順番がランキングと対応していなさそうだな、ということです。
ということで世界ランクと「ブレークポイント獲得率-理論値(A-B)(Gap値)」の相関関係を調べるために単回帰分析を行ってみました。
結果として、相関度合いを表す相関係数は
ATP=-0.142645・・・
WTA=0.00997・・・
となり、有意とは言えないという結果に。
(※±1に近いほど正または負の相関関係がある)
グラフを重ねてみても
あまり相関関係が無いということが見て取れます。
つまり、
ブレークポイントでの結果と世界ランクにはあまり関係がない
ということが言えそうです。
もっと言えば、世界ランクは長期的なスパンでの選手の強さを計る指標であることから、
ブレークポイントでの結果は長期的に安定した強さとは関係がない
と考えることが出来そうです。
○Gap値とは何を表すのか
考えてみたところ、どうやら長期的な強さとブレークポイント獲得率はあまり関係がなさそうということになりました。
では、今回求めた「ブレークポイント獲得率-理論値(A-B)(以下「Gap値」とする)」は何を表しているのでしょうか。
強さとはあまり関係が見られないことは前述のとおりです。
そうなると、全てのプレーヤーにおいてBP獲得率はリータンポイント獲得率+1~2%に平均が収束するものであり、誤差的に散らばっているだけなのではないか?
という仮説が浮かんできました。
これを言い換えれば、
Gap値は正規分布の形に収束するのではないか?
というものです。
というわけで正規分布かどうかの検証をしてみます。
今回は散布図を用いて視覚的に判断する方法を取りたいと思います。
以下はGap値とその期待値を散布図で表したものです。
どちらの散布図もサンプルが直線に沿ってプロットされているように見えることから、これらの分布は正規分布になっていると言えるでしょう。
ちなみにグラフ中で外れ値っぽいプロットには選手名を載せておきました。
後のグラフでも言及していますが、特にGriekspoorとRaducanuは正規分布的にはほぼほぼ0に近い確率の結果を残していることになるため、将来的には平均への収束が見られる可能性が高そうです。
以上のように、男女ともにGap値は正規分布になっている事がわかりました。
そうすると
「BP獲得率はリータンポイント獲得率+1~2%に平均が収束するものであり、誤差的に散らばっているだけなのではないか?」
という仮説にも根拠が出てきたと思います。
ただこの仮説は要するに
BPだけ極端に強いor弱い選手は基本的に考えづらく、長期のリターンポイント獲得率の方が重要である
というある意味常識的なことを言っているだけなので、そりゃそうだ、という自明の結果と言われてしまえばそれまでですね笑。
もちろんプレースタイルや作戦によってある程度BPで良い結果を残し続ける選手もいるとは思いますが(メドヴェデフなどはそんな気がしますね)、概ね平均的な数値に収束するのではないかということです。
おまけとして、以下はギャップ値を正規分布で表したグラフです。
ATP WTA
平均=2.17 平均=1.56
なのでWTAの方が散らばりが大きいですね。
縦軸が確率なので、前述の通りGriekspoorとRaducanuの異常さが目立ちます。
この二人の数値に何か理由がある故なのか、それともとんでもない幸運or悪運なのかは来シーズンのプレーを待ちたいと思います笑。
○まとめ
今回の調査から考えられそうなことは以下の2つです。
すなわち、
①ブレークポイントでの結果は長期的に安定した強さとは関係がない
②BPだけ極端に強いor弱い選手は基本的に考えづらい
ということです。
個人的には、選手に対して調子が良いor悪いと言うときにも、今回のGap値のように少し運の要素もあるのかもしれないと思いました。
例えば、BPでものすごい良い結果が残れば試合にも勝つ可能性は高いですし、そのような選手は調子が良いと言われるでしょう。
反対に、平均的にポイントが取れていたとしてもBPを取れずに試合に勝てないという場合、調子が悪いという言い方をされることが多いような気がします。
もちろん、肉体的な疲労・故障の有無や精神的なアップダウンも調子に含まれると思いますが、それ以外の部分でも調子と呼ばれるものがありそうという発見は、自分の中では興味深かったです。
それにしても、RaducanuはこのGap値でGSに勝ったのは凄いですね笑
以上!
2021 ウィンブルドン女子シングルス展望
雨天による順延があったために、少し変則日程となっている今年のウィンブルドン。
三日目にしてようやく全選手の初戦が終了したので、女子シングルスの展望について考えてみたいと思います。
例によって全ての試合を見ることはできていないので、スタッツや過去成績から判断している点も多いですがご容赦ください。
まず、今年のウィンブルドンの特記事項をまとめます。
①2年ぶりの開催
昨年はウィンブルドン、ひいてはグラスシーズンがほぼスキップされていたため、多くの選手にとっては久しぶりの芝でのプレーになっています。
そのため、ここ最近の間に頭角を表してきた若手選手や、他のサーフェスを主戦場とする選手などは対応に苦慮する可能性があります。
ただし、後述するように今年のウィンブルドンの芝は例年と比べて、滑る(主としてセンターコート)・遅い・ストロークがしやすいなどの声が挙がっているので、これまでグラスコートを得意としてきた選手にも対応の難しさがあると思われます。
以上の事由により、世界ランクやシードでは予想がつきにくい展開になると考えられます。
②例年より短い調整期間
今年のスケジュールは全仏OPからウィンブルドンまでの期間が近年よりも1週間短くなっています。
そのため、全仏OPを終盤まで勝ち残った選手の多くは、グラスコートの大会に出場することなくぶっつけ本番の形でウィンブルドンに出場しています。
更に上記①の事情も重なることで、上位ランカーや実績のある選手であっても芝対策が万全でない可能性があるため、注意が必要でしょう。
③芝の違い
今大会では初日から芝のコンディションについての言及が多く見られます。
屋根を閉めたセンターコートではマナリノ、セリーナなどのグラスコート巧者が転倒による負傷で棄権を余儀なくされていますし、他のトップ選手もバランスを崩している光景が散見されます。
ただ、センターコートの滑りやすいという問題は大会側の声明にもあるように試合数が増えるにつれて解消されていくと思います。
もう一つの聞かれる意見として、今年の芝は球足が遅いというものです。
キリオスが下の記事で言及しています。
また、NHKの解説で坂井さんからも、「選手からストロークがしやすいという声が聞こえる」と言った情報が伝えられました。
このような意見があるとしても、それがどの程度試合結果に影響するかは不明です。
参考までに2019年と今大会のここまでのニューボール関係値を載せておきます。
これを見る限り、ブレーク確率やボールの影響に例年との差は少ないと考えられます。
ただ、勝ち残る選手のプレースタイルの傾向に違いがでる可能性もあるので注意したいところです。
以上を踏まえ、ドローを見ながら展望を考えていきたいと思います。
○トップハーフ
○トップハーフの上の山
波乱が起きやすいグラスコートということもあり、非常に展望の読みにくい女子シングルス。
それでも、中心は第1シードのバーティになると思います。
しかし、不安要素もあります。
一つは前哨戦に出場していないため、今年のグラスコートの試合数が少ないことによる調整不足。
もう一つは、全仏で故障した部位を含めたコンディションです。
3Rのvandeweghe/シニアコバはどちらも前哨戦でいい動きをしていた選手なので、個々が最初の関門になるかと思います。
QFレベルでも前哨戦で好調だったオスタペンコ・カサツキナ・アザレンカ・コルネといったメンバーと対することになるため、簡単なドローではありません。
万全のプレーが出来ればバーティが筆頭とは思いますが、今名前を上げたメンバーならば誰がSFに進んでも驚かないドローにはなっていると思います。
全仏覇者のクレイチコバに関しては、そもそもグラスコートでの試合がキャリアを通じて少なく、また前哨戦もスキップしているため未知数です。
深く安定したストロークに、ダブルスもこなすボレー能力はどちらもグラスコートで武器になるとも感じますが、情報が乏しく判断が難しいです。
3Rでのコストゥク/セバストワを突破してくるようだと、勝ち上がりも見えてくるでしょう。
個人的な注目はオスタペンコです。
前週優勝ということで、体力的にも上位に勝ち進むのは厳しいかもしれませんが、その爆発力でドローを荒らす可能性は大いにあると感じています。
○トップハーフ下の山
ここで注目されるのはケルバーでしょうか。
グラスコートを得意としウィンブルドンの優勝経験もあるケルバー。今年も前哨戦で優勝しグラスコートでの変わらぬ強さを示しています。
ケルバーの不安要素は体力面です。
前哨戦での勝ち残りに加えて体力的にタフなドローが続きます。
2Rのトルモは長いラリーが多い粘り強い選手で、長い試合になれば体力の消耗は避けられません。
さらに、4Rではガウフ又はベンチッチを下したJuvanという若手選手との対戦が予想されます。前哨戦からの連戦でコンディションが落ちることがあれば、この4Rは難関になると予想されます。
QFレベルの対戦相手はスビトリーナ、ジョルジ、ムホバ、パブリュチェンコバなどが有力でしょうか。
ただ、スビトリーナ・ムホバは芝での勝率が高い選手ではありませんし、ジョルジは芝で力を発揮する選手ではあるものの安定感に不安がある選手で、パブリュチェンコバは全仏からの切り替えに不安があります。
可能性としてはケルバーorガウフ/Juvanが高いような気がしています。
個人的な注目は上記にも書いたJuvan(ユバン?)です。
グラスコートを得意としているベンチッチの早いショットにもしっかり対応していました。
勝ち上がりという点では経験が足らないため難しいかもしれませんが、ガウフとの若手対決となればかなり楽しみです。
○ボトムハーフ
○ボトムハーフ上の山
ボトムハーフに関して2Rがほとんど終了しています。
ここまでいい形で勝ち上がっているのはKa.プリスコバとキーズだと思います。
どちらも強力な1stサーブを持っており、グラスコートの特徴を使って優位性を保てています。
プリスコバに関しては個々最近のGSで序盤ではいいプレーをしながらも、劣勢を跳ね返せずに中盤であっさりと敗退してしまう展開が続いています。
多くはメンタル面の問題と考えられるので、どこかで自信を取り戻すことが出来れば能力的にはSF、Fに残っても遜色ありません。
毎回Ka.プリスコバに注目していると書いている身としては、そろそろ大きな活躍を期待したいところです笑
キーズは前哨戦から良いサービスゲームを展開しており、3Rのメルテンスをクリア出来るようなら、4Rのゴルビッチ/ブレングルがタフマッチを経験していることを考えると、QF、SFが見えてきそうです。
個人的な注目はサムソノワです。
ベルリンの決勝でベンチッチを破って優勝している選手で、今シーズンのグラスコートではサービスゲームにおいて強力なサーブ・ストロークを展開しています。
2Rのペグラ戦でも1stサーブポイント獲得率が81%と高い数値を残しています。
今大会ではベルリンに比べるとミスが多い印象があるものの、3Rでスティーブンスの守備を突破してくるようだと波乱を起こす可能性がある選手だと思います。
○ボトムハーフ下の山
個人的にこの山が一番激戦区だと感じています。
グラス巧者のジャバー、強力なサーブ・ショットのあるリバキナ、優勝経験のあるムグルサが中心になるでしょうか。
ジャバーとムグルサが3Rで当たってしまうのが勿体ないですね。
サバレンカやシフィオンテクといった若手選手も危険な存在ですが、グラスコートとの相性を考えると一歩下がる印象です。
サバレンカは1R、2R共にまだUFEが多く見られるなど少し安定感を欠いていますし、シフィオンテクはインタビューでもグラスコートへの対応に困っていることを明かしています(もちろん本音ではない可能性も高いですが)。
ただ、グラスコートは試合が進むにつれて芝が禿げていくため、それによってプレーが改善されている可能性もあるので、試合ごとに注視が必要だと思います。
個人的な注目はOsorio Serranoです。
予選からの勝ち上がりの選手ですが、サービスゲームに不安のある選手なのでアレクサンドロバは厳しいかなと感じていましたが見事勝利、3Rではサバレンカに挑みます。
非常に勝負強い印象のある選手なので、サバレンカのミスを引き出すことができれば競った試合も視野に入ると思います。
○終わりに
今大会はそうでなくとも展望の読みづらい女子シングルスにおいて、2年ぶりの芝・調整期間の短さ・芝の状態変化疑惑という要素が加わることで、非常に難しい局面ができてしまっているように思います。
以上、少し頼りない展望となってしまいましたが、楽しい観戦の手助けとなれば幸いです。
オジェ アリアシムの決勝連敗を考える(2022/2/19追記 ※連敗脱出)
カナダの新星、フェリックス・オジェ アリアシム。
20歳という若さにしてATPツアーのトップ20に入りし、強力なサーブ・フォアハンドを武器に、既に何度もツアーの決勝に進出している期待の選手です。
そんな将来有望なオジェ アリアシムですが、彼の代名詞にもなりつつある不名誉な記録があります。
それはツアー決勝での連敗です。
2019年に初めて決勝に進出したリオ・オープンから今年の2021年のシュツットガルドまで、実に8回も決勝の舞台に立ちながら一度も勝利することができませんでした(2021/6/25現在)。
もっと言うならば1セットも取れていません。
ちなみにツアー未勝利状態での決勝での連敗記録はフランスのベネトーが記録した10連敗のようですが、この記録は足掛け7年かけて作られたものであることや、そもそもベネトーはセットはとっていることを考えると、
オジェ アリアシムの決勝での成績はかなり異様
と言っても良さそうです。
今回は、ここまでのオジェ アリアシムの決勝進出大会での成績などを振り返り、どうしてこのような結果になっているのかを考えてみたいと思います。
1. オジェ アリアシムはプレッシャーに弱いのか?
まず最初に、オジェ アリアシムが一般的にみてプレッシャーに弱く、そのために決勝で力を発揮できていないという可能性を考えてみます。
ATPのHPにある指標にUnder Pressure Rating(UPR)というものがあります。
これは一般的にプレッシャーのかかる場面のスタッツを加算することで、選手の勝負強さを数値化しようとするものです。
具体的には、
ブレークポイント獲得率+ブレークポイント阻止率+タイブレーク勝率+ファイナルセット勝率
で計算されます。
もともとの能力が高い選手はこのUPRの値も大きくなりやすいため、単純に数値の大きさを見るよりも、ランキングと比較して考える必要があると思います。
現在(2021/6/22)のオジェ アリアシムの順位はこちら
この時点での世界ランクが19位なので、
オジェ アリアシムは比較的プレッシャーのかかる場面でも実力を発揮できている
と考えることができそうです。
そこで次に、
決勝という特殊な環境下でのみ何らかの変化が起きている
という可能性を考えてみたいと思います。
2. オジェ アリアシムに決勝で何が起きているのか?
では、これまでオジェ アリアシムが決勝に進出した大会の各試合の主要スタッツをグラフで見ながら考えていきたいと思います。
まずは、最初の大会であるATPリオ(クレー)から。
縦軸が%
横軸は左から
DF/game:1ゲームあたりのダブルフォルト数
1stservein:1stサーブ成功率
1st point:1stサーブポイント獲得率
2nd point:2ndサーブポイント獲得率
1st return:相手の1stサーブに対するリターンポイント獲得率
2ns return:相手の2ndサーブに対するリターンポイント獲得率
各色は左から早いラウンドの対戦相手となっています。
赤色が決勝の対戦相手とそのスタッツとなります。
ここで目を引くのは一番左、つまり、1ゲームあたりのダブルフォルト数の決勝での増加です。
また、1stサーブの成功率、ポイント獲得率も決勝ではSFに比べて低下しています。
SFのP.クエバスと決勝のジェレの2019シーズンのクレーコートにおけるリターンスタッツは以下の通り
1stリターンポイント獲得率 2ndリターンポイント獲得率
クエバス 32% 52%
ジェレ 30% 50%
決勝の相手ジェレよりもSFのクエバスのほうが良いリターンスタッツを残しています。
にもかかわらず、オジェ アリアシムのサービススタッツが低下していることから、オジェ アリアシム側に原因があると思われます。
また、相手の2ndサーブに対するリターンポイント獲得率が低下しています。
2019のジェレはクレーコートで比較的高い2ndサーブポイント獲得率を残しているため(53%)、異常とまでは言えませんが、クエバスやガリンといったクレー巧者達を相手にした時と比べて10%以上低下しているのは少し不思議です。
こちらもオジェ アリアシムに要因がありそうです。
以上の
①サービスタッツ(主に1st)の低下(傾向①)
②相手の2ndサービスに対してのリターンポイント獲得率低下(傾向②)
はその後の決勝でも見られる傾向となっており、オジェ アリアシムの決勝連敗を理由付けているスタッツと思われます。
これらについての総合的な考察は後にまわして、次の大会を見ていきましょう。
2019二回目の決勝進出となったATPリヨン(クレー)。
こちらの大会でも、決勝におけるDF率の増加、1stサーブポイント獲得率の低下、相手の2ndサーブに対するリターンポイント獲得率の低下が見られます。
1stサーブに対するリターンポイント獲得率も低下しているのですが、この年2019年のペールはクレーことにおいて1stサーブ獲得率78%という驚異的な数値を残しているため、オジェ アリアシムの問題ではないと考えられます。
上記の①・②の傾向は依然としてみられる中でも、特に序盤のクレー2大会はDF率の急上昇が目立ちます。
この2大会は対戦相手から考えてもオジェ アリアシムに優勝の可能性が十分あったと考えられ、本人もそのような意識から力みにつながり、結果としてDFが増えたと考えられます。
2019年3回目の決勝進出となったシュツットガルド(グラス)。
データから見ると、この大会の決勝が最も良いプレーができているように思います。
前述の①、②のような傾向が見られず、大会を通じたプレーレベルが決勝でも維持できています。
ただ、この試合はベレッティーニの強力な1stサーブに苦しみました。
2019のべレッティーニのグラスコートでの1stサーブポイント獲得率は驚異の84%。
それまでの相手とは一味違うサーブの威力に最後まで対応できなかった形になります。
それでも2ndセットのタイブレークでは13-11までもつれており、8連敗中の決勝の中でも最も競った試合だったように思います。
このチャンスをものにできなかったアリアシムの連敗はまだまだ続いてしまいます。
2020最初の決勝はロッテルダム(ハード)。
2020年に入っても傾向①サービススタッツの低下の傾向が続きます。
この大会の決勝ではリターンは健闘したものの、1stサーブのイン率・ポイント獲得率が低迷し、ダブルフォルト数もSFに比べ増大してしまいました。
2020のハードコートにおけるモンフィスは決してリターンの悪い選手ではありませんが、ディミトロフ・カレーニョブスタに対した時に比べ、1stのイン率もポイント獲得率も10%近く下がるというのは、オジェ アリアシム側に要因があることを推測させます。
続くマルセイユ(ハード)。
この時点でのオジェ アリアシムとチチパスの対戦成績は2勝1敗。
1敗も2セット連続のタイブレークをチチパスが制したもので、この試合も接戦が予想されましたが、結果はチチパスが6-3、6-4で完勝。
この試合でも傾向①が見られます。
2020年のハードコートにおけるチチパスのリターンは決して良いとは言えず、1stサーブに対するリターンポイント獲得率は28%と決して良いとは言えないスタッツです。
しかし、オジェ アリアシムの1stサーブのスタッツはイン率・得点率共に大会最低を記録してしまいました。
これ以降チチパスはオジェ アリアシムに連勝しているの、対策を掴んだ可能性もありますが、ハードコートではこの後もフルセットの試合があるので、この試合はあっさり負け過ぎという感も強いです。
2020最後の決勝はケルン(インドアハード)。
対戦相手は地元のA.ズベレフ。
ズベレフはこの年にケルンで開かれた2大会どちらでも優勝するなど、このサーフェスとの相性が抜群でした。
特にリターンスタッツが優秀だったため、オジェ アリアシムのサービススタッツが低下してしまうのも致し方ない部分が多いです。
風や太陽の影響のないインドアコートではズベレフの1stは安定して強力なため、リターンに苦しむのも予想の範囲内と言えるでしょう。
ただ、決して2ndサーブが得意でないズベレフに対し、2ndサーブに対するリターンポイント獲得率が9%というのは少し低すぎます。
しかも、相手の1stサーブ時よりもポイントが取れていません。
傾向②の相手の2ndサービスへのリターンポイント獲得率低下が現れていると考えられます。
2021年の最初決勝はメルボルン(ハード)。
この試合では1stサーブのイン率は上がったものの、ポイント獲得率が大きく低下してしまいました(傾向①)。
エバンスの2021年の1stサーブに対するリターンポイント獲得率は28%とそこまで高いわけではなく、ダブルフォルト率も上昇していることから、オジェ アリアシムのサーブの精度に問題があったと考えられます。
また、2ndサーブに対するリターンポイント獲得率も16%と低迷してしまいました(傾向②)
この試合は自らの2ndサーブでのポイント獲得率も低下していることから、そもそもストローク戦でポイントが取れていないという可能性も高かったと思われます。
相手の1stサーブ時よりもポイントが取れていないのはケルンの決勝と同様で、強く傾向②が現れているといえます。
続いても2021年でシュツットガルド(芝)。
現時点で最後の決勝です(2021/6/25)
シュツットガルドは2019年にも決勝に進出している相性のいい大会と言えるでしょう。
今大会でもハリス、アンベール、芝のクエリーと強敵に勝利しての決勝進出です。
決勝の相手、チリッチはこれまでの3人に比べて1stサーブに対するリターンポイント獲得率が高い選手なので、1stサーブのスタッツが下がるのは仕方がないといえます。
ポイント獲得率67%は及第点といえそうで、傾向①は見られなかったと考えられます。
二年前の同大会でも決勝において良いサービススタッツを残せていたので、良いイメージを持って望めていたのかもしれません。
一方、チリッチの2ndサーブ時のポイント獲得率はそこまで高くないのですが、リターンポイント得点率はかなり低下してしまっています。
これは傾向②が現れているといっていいでしょう。
以上のように、各大会の決勝において多くの場合に傾向①②が見られていると言えるでしょう。
では、なぜ①②のような傾向が見られるのか、考察してみたいと思います。
○傾向①について
サービススタッツの中でも特に影響が見られるのはDF率の増加と1stサーブ関連のスタッツの低下です。
サービススタッツの中でもDFはプレッシャーのかかる場面としてポピュラーであり、決勝という特殊な舞台であることを考えると、DF率の増加は精神的な影響と結びつけやすいでしょう。
では、1stサーブのスタッツ低下はなぜ起きているのでしょうか。
一般的にATPのツアーレベルにおいて、1stサーブはサーバー側が圧倒的に有利な状況となります。
特にオジェ アリアシムは強力な1stサーブの使い手であり、ポイント獲得率もキャリア平均で約75%を誇ります。
ここからオジェ アリアシムにとって1stサーブは試合の中でも自分に有利な局面であると言えるでしょう。
この「自分に有利な局面」というのが後述の傾向②に共通するキーポイントであると考えます。
○傾向②について
リターンゲームにおいては相手の1stサービス時よりも2ndサービスの方がリターンが容易というのは周知の事実です。
特に男子のトップレベルになれば1stサーブの優位性は疑いようがありません。
ということはリターンゲームにおいては、2ndサービスの時がリターン側に有利な局面であるといえます。
○共通する「自分に有利な局面」という要素
傾向①②に共通する要素と考えられる「自分に有利な局面」。
前述のUPRにあらわれているように、オジェ アリアシムは一般的にプレッシャーに弱い選手ではないといえます。
しかし、決勝という状況に一定の状況が結びつくことで、オジェ アリアシムに特別な影響を与えていると言えるのではないでしょうか。
すなわち、
決勝 + 自分に有利な局面 → パフォーマンスの低下
というように表せるのではないでしょうか。
本人の心理面を推し量るのは難しいですが、優勝という目標がより身近に感じられることで普段とは異なる心理的圧迫を受けているのかもしれません。
3.まとめ
ここまで、オジェ アリアシムの決勝進出大会のスタッツを比較することで一定の状況下でオジェ アリアシムのパフォーマンスが低下する可能性を考えてみました。
「自分に有利な局面」が不利に働くとなると試合に勝利するのは厳しそうですし、原因が意図しない心理的なものであるとするならば、修正も一筋縄ではいかなそうです。
個人的にはまずは1セットとることで、どのような変化がおこるのかに興味があります。
リードすることで「有利な局面」と感じ失速してしまうのか、それともこれまでとは違うと考えを切り替えることで、決勝以前のパフォーマンスを発揮できるようになるのか。
いずれにしても、オジェ アリアシムという選手の地力は高いと感じていますし、これからも決勝に残る可能性の高い選手であると感じています。
最近ではコーチにトニ・ナダル氏を招聘したことも話題になっていますし、自らの壁を破り飛躍を遂げることを期待したいですね。
(これからも決勝の機会があれば随時補足していきたいと思います)
以上、観戦の助けになれば幸いです。
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ここから2022/2/19補足
ついにオジェ アリアシムが9回目の決勝のチャンスをものにして、ATPツアー初優勝を飾りました。
では、その優勝したロッテルダムのスタッツを振り返ってみましょう。
上記と同様に、赤が決勝のスタッツとなっています。
これを見ると決勝の相手がチチパスという強敵であるにもかかわらず、多くの項目で決勝のスタッツが良くなっていることがわかります。
特に1stサーブポイント獲得率や2snリターンポイント獲得率に関しても決勝以前の試合と同程度の高さを維持できていることから、これまでオジェ アリアシムの決勝に見られた上記傾向①②が見られなかったのは注目すべき点です。
おまけにDFに関しては0と驚異のパフォーマンス!
もともとDFが少ない選手ではないオジェ アリアシムなので、今回の決勝では通常よりも良いパフォーマンスを発揮したと言っても良いかもしれません。
以上の結果をみると、オジェ アリアシムは決勝におけるプレッシャーを克服したと考えて良いかもしれません。
決勝での連敗については本人もかなり気にしていたようですし、それについてトニ・ナダルコーチからの助言もあったと聞きます。
もともと潜在能力は素晴らしい選手ですし、ここに大事な場面でのメンタルコントロールが備わってくるとなると、かなり良いパフォーマンスを残しそうですね。
今後のオジェ アリアシムの活躍に期待しましょう!
ニューボールはキープしやすいは本当か?(2021クレーコート編)
ある日、NHKBSでマスターズローマの中継を見ていたときのこと。
解説者の方が
「ここはニューボールなのでブレークは難しいですよ」
といった内容の発言をされていて、確かによく聞く話だと思ったのですが、本当にそういう傾向ってあるのかなぁと気になってしまいまして、だったらちょっと調べてみようじゃないかと思い立ったわけです。
そこで、ローマから全仏までのクレーコートシーズンが一段落したところで、2021年のクレーコートシーズンにおけるニューボールの影響についてまとめてみました。
先に結論から言うと
「男女ともにニューボールのゲームは他のゲームに比べてキープしやすい(ブレークされにくい)」
(※ただし女子は有意な差かは不明)
という傾向が見られました。
NHKの解説の方は正しかった笑(疑っていたわけではありません)
ただし、以下の点に留意が必要です。
① あくまでクレーコートかつローマから全仏まで限定の結果であり、その他のコートは今後に検証予定
② 大会ごとのボール・サーフェスの違いや選手ごとの特徴により短期的な傾向とは一致しない可能性あり
③ 試合数の関係で全仏の影響が大きくなっている
④ ③に関して男子は5セットマッチであり、その影響は考慮していない
⑤ ツアーレベルの大会のみの結果であり、下部大会は射程外
では、データを載せながら結果を見ていきたいと思います。
○ATP(男子ツアー)
まず、男子についてです。
ローマから全仏以前までに行われた大会は、ローマ、ジュネーブ、リヨン、パルマ、ベオグラードの5大会です。
以下のニューボール関係の数値をグラフにすると以下のようになります。
縦軸はブレーク率、
緑はニューボールのゲーム(new ball)、
灰はニューボール直前のゲーム(before new ball)、
青は前2つを除いたその他のゲーム(other)を表しています。
縦軸がキープ率でないのは、ブレークの数を数えるほうが楽だったという極めて利己的な理由です、ご容赦ください。
この中で一番試合数が多いのはマスターズであるローマで、結果も最も予想に近い形になっています。
すなわち、ニューボールのゲームが最もブレークされ難く(キープしやすく)、その直前のゲームが最もブレークされやすい(キープし難い)という結果です。
その他の4大会については試合数が少なく、極端な数値が出ることが予想されるため、個々の言及は避けますが、ベオグラードの数値がなかなかに異様で面白いですね笑。
男子ツアーレベルで平均ブレーク率が40%を超えるのは中々ないと思います。
全仏前週ということで選手のレベルが少し低いこと、ジョコビッチが決勝まで4試合戦っていること等が影響していると考えられます。
次に全仏の結果です。
男子のGSは5セットマッチということもあり、全仏だけでほか5大会の合計ゲーム数を超える数となっています(全仏=約4200、その他=約3600)。
また、全仏は試合数も多いため、勝ち上がった選手の比重が薄まるのでより全体的な傾向が反映されやすいと思われます。
結果としてはローマと同じ関係、すなわち、ニューボールのゲームが最もブレークされ難く(キープしやすく)、その直前のゲームが最もブレークされやすい(キープし難い)が確認されました。
ローマと全仏の共通点としては
①試合数が多い
②トップ選手が多く参加している
が挙げられ、ここから①標本数が多くなったことで傾向が収斂した、②実力のある選手に強くこのような傾向が現れる、といった仮説が思い浮かびます。
②については、
1)トップに近い選手ほど強力なサーブを有している可能性が高い
2)一般的にニューボールの方が速度が出やすく跳ねやすい
ということを前提とすると、ニューボール時の方がリターンも難しくなると考えられるため、採りうる仮説と言えるのではないでしょうか。
この場合、ゲーム・ポイントごとのリターンミスのデータがあれば良いのですが目視以外で計測できるサイトとかあったら教えていただきたいです^^
男子のまとめとして、全大会を合計したグラフを載せておきます。
5セットマッチに加え試合数の多い全仏の影響が大きいのは留意した通りです。
ちなみに数値は左から24.41%(青)、22.49%(緑)、26.73%(灰)となっています。
ということは、ニューボール前後で約4%ブレーク確率が減少していたことになります。
この4%と大きいと見るか小さいと見るかは個人差がありそうです。
直近一年のブレーク確率を選手ごとに見ると、 平均30%を超えているのがナダル(34.3%)、シュワルツマン(33.6%)、ジョコビッチ(32.5%)の3人で、そこにコルダ(28.3%)、マルティネス(28.2%)、メドベデフ(28.1%)、フォキーナ(27.6%)と続きます。
このうち上位20人ほどが4%ブレーク率が上がれば30%と超えると考えると、この4%は大きいのではないかと、個人的には感じています。
○WTA(女子ツアー)
続いて女子についてです。
まずは全仏前のローマ、パルマ、ベオグラード、ストラスブールの4大会について。
ローマ、パルマ、ストラスブールではニューボール時が最もブレーク率が低いという結果になっています。
特に試合数の多いローマで男子と同様の傾向が見られたのは、示唆に富みます。
女子は男子に比べてブレーク率が高いので、極端な数値が出ることも予想していたのですが、比較的穏当なグラフとなっています。
続いて全仏の結果です。
女子はGSも3セットマッチなので、男子に比べると標本数は減ってしまうのですが、それでも2500以上のゲームの合計がやや予想と異なる結果に収斂しているのは意外でした。
ちなみに数値は左から36.49%(青)、34.73%(緑)、31.54%(灰)となっており、ニューボール前後で約3%ブレーク確率が増加していたことになります。
ニューボール時にブレーク率が下がった理由については説明が難しいですが、
(前提)女子はサービスの威力が男子ほど高くない
→リターンで主導権をとる事が増える
→ニューボール時にリターンの速度が上がり、サーバーが返球に窮する
→結果としてブレークが増える
といったところでしょうか。かなり怪しい推論です笑。
後述するように女子の合計値では男子ほど見られなかったことから、全仏は誤差と説明したほうが無難かもしれません。
女子のまとめとして、こちらも全大会の合計値を載せておきます。
数値は左から37.68%(青)、34.77%(緑)、35.96%(灰)となっています。
結果としてはニューボール時が最もブレークされにくいということになっていますが、男子の結果と比べると以下の違いがあります。
1)ニューボール前後では約1%ほどしか変化がない
2)ニューボール直前がその他よりもブレークされにくい
この2つの違いから、女子は男子に比べボールの交換の影響を受けにくいのではないかと考えることができます。
その理由については、やはりサーブの威力が男子に比べて劣るため、ボールの変更による威力の上昇がポイント獲得まで直結しないということが考えられます。
ただ、ローマ、パルマでは男子と同様の傾向が見られているだけに、今シーズンが異例の結果なのか、一般的な傾向なのかは定かではありません。
全仏でバーティ、大坂、サバレンカといった強力なサーブを持つ選手が早期に敗退してことも影響しているかもしれません。
引き続き、違うサーフェスの結果も調査しながら観察していきたいところです。
○まとめ
「男女ともにニューボールのゲームは他のゲームに比べてキープしやすい(ブレークされにくい)」
(※ただし女子は有意な差かは不明)
という結果になりました。
特に男子は比較的この傾向が強かったので、試合を見るときに意識すると面白いかもしれませんね。
引き続きグラスコート、ハードコートと調査を継続していきたいと思います。
随時、大会ごとの結果をtwitterの方に上げていこうと思っているので良かったら御覧ください。
2021 全仏OP女子シングルス展望(大会終了後追記)
今年の全仏オープンも全選手の初戦が終了したということで、今後の展望をまとめてみたいと思います。
今年はシード勢の離脱・敗退が割とみられるので大会としてはやや荒れ気味かと思いますが、そもそも女子の試合はその時点での調子が大きな影響を持っているのでランキングやシードがあまり意味を持たないという側面もあります。
そのため全試合を視聴するして今大会の調子を判断するのが理想なのですが、流石に全試合は厳しいのでスコア・スタッツから推測する部分も大いにありますが、見た範囲という留保付きで書かせていただこうと思います、ご容赦ください。
まずはトップハーフから。
こちらでは一昨年の覇者バーティと昨年の覇者シフィオンテクが目を惹きます。
まずバーティの山ですが、正直誰が勝ち上がるかが非常に読みにくいです。
まずバーティですが、先週末に左腰付近を痛めたということで初戦でもメディカルタイムアウトを取っています。
初戦はなんとか勝利しましたが、この先リネッテ、ジャバー、ガウフorブレイディと続く可能性があり、かなり体力的に厳しい戦いを強いられると予想されます。
QFでもKaプリスコバ、アレクサンドロバ、スビトリーナ、ムホバといったメンバーの勝ち上がりが予想されるため正直誰が勝ってもおかしくないドローになっていると思います。(クレジコワは先週優勝の疲労を考慮してここには入れていません)
個人的に注目しているのはKaプリスコバです。
最近結果は出ていないものの、プレーの内容は上向いていると感じています。
メンタル面の不安定さもバジンコーチの効果で改善傾向にあるようにも思います。
あとは厳しいゲームを勝ちきって自信をつける事ができればダークホースになる可能性も十分ある気がします。
ただ、前回の全豪のときもプリスコバ注目であまり振るわなかったのでそこまで期待せずに見守りたいと思います笑
アン・リーにも注目しています。
全豪のときからいいプレーをしており、初戦も6-0、6-1で快勝しています。
初戦は相手のミスが早かったこともあり判断は難しいですが、次戦スビトリーナ相手にどのようなプレーをするのか楽しみです。
下のケニンの山、ここの中心はシフィオンテクになると思います。
スピン量の多いストロークはRGのコートとの相性もよく、体力面でも不安要素が少ないです。
対抗はサッカリかメルテンスになるでしょうか。
ケニンは初戦を見た限り、底は脱した感じではありますが、まだ安定感に不安が見られます。
ペグラはハードコートシーズンの疲労か少し落ちていると感じました。
個人的に注目しているのはムグルサに勝ったコストゥクです。
確かにムグルサは怪我明けということもあり精彩は欠いていたものの、コストゥクも力強い良いプレーをしていました。
勝ち進んでシフィオンテクとの若手対決となれば興味深いカードとなりそうです。
トップハーフでは本命はシフィオンテク、それに続いてブレイディ、サッカリ、ガウフ、Kaプリスコバといったところでしょうか。
いずれにしてもバーティのコンディションが気になるところです。
今シーズンのクレーコートを見ていてもSF、Fの実力はあるだけに2R以降どのような状態となるのか注視していきたいところです。
続いてボトムハーフ。
まずは上のサバレンカの山ですが、やはり中心はサバレンカになると思います。
今大会ではミスはあるものの、フィジカル面でいえば頭一つ抜けていると言えるでしょう。
3RのパブリュチェンコワをパスできればSFはかなり有力と言って良いかもしれません。
ミスがかさめば危険な相手なのでここがまずは難所になると思います。
セリーナは爆発力はあるものの、安定感が今ひとつで、コリンズ、リバキナ辺りとの戦いは厳しいものになると考えられます。
よしんば勝ち抜けたとしても体力的な消耗は避けられないでしょうし、SFは難しいと判断します。
続いて下の山ですが、シード勢がかなり消えてしまっていてかなりの荒れ場となっています。
その中でもクレーシーズン好調のバドーサを筆頭に、ボンドロウソバ、カサツキナ、クデルメトバ、シニアコバ、ヘルツォグといった面々が良い調子に見えました。
と、これを書いている間にシニアコバがクデルメトバに勝ちました。
中々読めない山ですが、大坂の離脱もありドロー的にはバドーサが一歩有利な立場にいると思います。
バドーサは今季のクレーでは15勝2敗と安定しており、負けたのもチャールストンのクデルメトバとマドリッドのバーティという好調の相手のみ。
クレーでの試合数の多さが少し気になりますが、一週間を間を空けての全仏ということでそこまでの不安要素ではない気がします。
グランドスラムの二週間の戦い方という意味では、近年に決勝まで進出しているボンドロウソバにも注目したい所です。
今季は決して好調とは言えないものの、初戦はカネピの強打相手に序盤は押されるも冷静な立ち回りで逆転勝ちを収めています。
誰が勝ち上がるかは読みにくいものの、この山を消耗少なく勝ち上がる選手がいた場合、、SF、Fの結果に影響を与える可能性はあります。
以上をまとめると、以下の3点が注目ポイントと言えそうです。
①バーティのコンディション
②サバレンカのミスの減少
③ボトムハーフ下の混戦の行方
これにシフィオンテクの調子やコストゥクやリーといった若い選手の躍動も合わせて見ていくと、より全仏を楽しめるのでないかと思います。
シード選手の棄権・敗退やら少し混乱していた今大会の序盤ですが、1Rも終えて少し落ち着いてきた様相も見えます。
ここから決勝に向かって多くの熱戦、ドラマが見られることを1観戦者として期待しています。
以上、皆様の観戦に一役立てれば幸いです。
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ここから大会終了後の追記となります。
まず、初回作成時に上げたポイントについてコメントしたいと思います。
①バーティのコンディション
→これは危惧した通り、2回戦の途中でリタイヤという残念な結果になってしまいました。
結果としてガウフがこの山を勝ち抜ける事になりましたが、万全のバーティとクレジコワの対戦を見てみたかった気もしますね。
(クレジシワの躍進については後述)
②サバレンカのミスの減少
→サスノビッチ戦から若干怪しかったサバレンカの調子でしたが、危惧したとおりミスが減らずパブリュチェンコワに敗れる結果となってしまいました。
41本のウィナーはあったものの、UFE39は厳しかったですね。
サバレンカは良くも悪くも大会を通じてあまり調子が変わらない選手でラウンドが進むごとに改善といったことが少ないので、この辺りが今後のGSでの課題となりそうです。
③ボトムハーフ下の混戦の行方
→ ボトムハーフ下では最終的にバドーサとジダンセクがQFまで勝ち進みました。
バドーサは言及していた通りでしたが、ジダンセクがここまで勝ち残ったのは完全に意表を突かれました笑
アンドレスクや好調シニアコバをフルセットで下し、その勢いのままにバドーサとのファイナルセット第14ゲームまでもつれた激戦を制してSF進出を決めました。
フットワークと固い守備を基本としたプレーは見ていて楽しいテニスでしたね。
バドーサも3Rのボグダン、4Rのボンドロウソバとタフゲームからのジダンセク戦だったため、終盤は少し精神的にも追い込まれている印象でしたが、最後まで素晴らしいファイトだった思います。
今後のクレーコートでも活躍を期待したいですね。
○総括
さて今回の全仏女子シングルスでは、最終セットにタイブレークが導入されていない全仏ならではの熱戦が数多く見られました。
前述のジダンセク対バドーサに加え、リバキナ対パブリュチェンコワ、サッカリ対クレジコワなど、どれも精神的、肉体的なタフさを試される熱戦で見ているこちらも手に汗握る熱戦でした。
リバキナに関しては前に記事を書いていたこともあり、復調は嬉しかったですね。
tennisandlespen.hatenablog.com
この熱戦続きの全仏を制したのが、クレジコワでした。(私がWTAのHPで発音を聞いた限りクレジコワに聞こえたのですが、一般的な表記はクレチコバ又はクレイチコバのようですね、どうするか考え中です笑)
今シーズンのクレジコワはハード、クレーを通して安定した強さで、特にストロークの安定感が良いと感じていました。
前週のストラスブーグで優勝していたということやダブルスでも勝ち上がりが期待されるということなどから、体力的に勝ち進むのは厳しいのではないかと予想していましいたが、見事に覆されました笑。素晴らしいタフさです。
ドロー的には、今シーズンにクレーで破れているバドーサ・シフィオンテクに当たらなかったという幸運もあったように思いますが、サッカリとの熱戦や決勝のファイナルセットなど、緊張する場面でのコーナに決まるストロークは見事の一言。
今大会では少し精神的に不安定になった場面もあったようですが、それを乗り越えての優勝、ノボトナさんとのエピソードもあり大変感動されられる光景でした。
今大会はトップシードが早くに消えるなど波乱ともいえる展開になりましたが、試合内容が面白い試合がとても多く、シードや世界ランクではなくその時にいいプレーをしている選手が勝ち残るという女子の特徴が強く出た大会だったように思います。
今回はクレジコワが優勝しましたが、今後も支配的な強さを維持するかというと、可能性は否定できませんが、難しい気もしています。
依然として女子テニス界は群雄割拠が続くと予想しますが、今大会でもガウフ、コストゥクの躍進やリバキナの復調など若い世代の台頭も予感させられました。
ここからウィンブルドン、そして開催されるとするとオリンピック、そして全米とビッグタイトルが続きますし、今後の女子テニス界も注視していきたいですね。
以上、観戦の手助けとなれば幸いです。
2021 全豪OP女子シングルス展望(大会終了後追記)
この記事を書いているのは日本時間2/9の夜で、全豪オープンの二日目が終了した時点です。
すべての一回戦が終わった時点で、情報の整理がてら今年の展望を考えてみたいと思います。
なお、全ての試合を見れているわけではないのでスタッツのみの判断も多いに含まれます、ご容赦ください。
まずは、トップハーフの上の山から。
一回戦、まさかのダブルベーグルで勝利したバーティ。
調子は良さそうですが、ここからのドローが
3R krejcikova or アレキサンドロワ
4R ロジャース or コンタベイト
QF メルテンス or Kaプリスコバ or コリンズ
となった場合は、なかなか厳しいドローのように思います。
特にバーティは前哨戦で優勝しているので、中盤で一回体力的に落ちる期間があってもおかしくありません。
それが3R、4Rで訪れた場合、上記の選手たちは危険な存在のように思えます。
2Rで注目しているのはKaプリスコバ対コリンズです。
前哨戦での同カードではコリンズが勝利しておりますが、ここをプリスコバが勝ち抜けてくるようだとGSへの調整がうまく行っている可能性があり、先へと駒を進める見通しが立つかもしれません。
twitterでも少し述べたのですが、これまでプリスコバはGS前哨戦で好調にもかかわらず、その後のGSではうまく結果が残せないという印象がありました。
まだGSを一度も制していないプリスコバは去年末に、大坂とGSを獲ったバジンコーチを雇っていて、今回はその体制で初めてのGSとなります。
バジンコーチがGSにおけるコンディショニングについて策を講じている可能性も高く、今年の前哨戦での早期敗退は戦略的な意味合いがあるかもしれません。
前哨戦で破れているコリンズとの試合は、ピーキングが上手くいっているかを判断する良い試金石になると思います。
上記のようにバーティにも少し不安要素があることを考えると、この山の勝ち抜けは非常に予測しにくいです。
バーティ、プリスコバはもちろん、メルテンスやコリンズも好調を維持しており、コンタベイトも1Rで良いサーブスタッツを残しているということも考えると、多くの選手に勝ち抜けの可能性がある山と言えそうです。
ちなみにベンチッチはまだちょっと不安定かな?という感じですね。もともとミスの多いタイプですがまだまだDFも多く、試合勘が十分でないという印象です。
続いてトップハーフの下の山。
この山の2Rでは、ケニン対カネピ、スビトリーナ対ガウフが注目カードです。
カネピは今年36歳というベテラン選手ですが、去年の末からITFレベルで連勝、今年の前哨戦でもサバレンカ、カサツキナ、アレキサンドロワを下して決勝進出を果たしています。
年齢もあり連戦からの疲労が心配されますが、おそらくは先を見据えず1勝でも多く勝つというスタンスだと思うので、ケニンがスロースタートした場合、一気にカネピが試合を持っていく可能性は十分考えられます。
ガウフは早くもシード選手との戦いですが、一回戦のサーブスタッツを見ると、1stサーブポイント獲得率が 76%と高水準を記録した上にDFも3に抑え、前哨戦で苦戦したタイヒマンをストレートで下しています。
WTAの場合、サーブの調子はその日次第のところが大きいので、当日の調子次第となりますが、ガウフが1Rのレベルのサーブを打つことができれば、リターンが強みのスビトリーナの強みを封じて勝利できる可能性も十分にあると思います。
比較的速く弾まないサーフェスという点も運動能力に長け、フラット気味のサーブを打つガウフにとってプラスになるかと思います。
tennisandlespen.hatenablog.com
上の山でカネピが勝利した場合はブレイディが勝ち抜ける可能性が高くなりそうです。
Juvanも強いショットの打てる若手ですが、安定感でブレイディに分があると考えています。
ケニンが勝った場合は調子を上げている可能性が高いので、プレイディと競る形になると思います。
一方下の山ではガウフ・スビトリーナの勝者がペグラと競るという感じでしょうか。
ペグラもいいプレーをしていましたが、体調不良のアザレンカ相手というのは判断が難しく、ここ最近の戦績から見るにガウフorスビトリーナに分があるような気がします。
プティンツェワも良い選手ですが、隔離による影響が強い選手と思われるので、勝ち抜けは難しいと判断しました。
あと忘れてはいけない点として、この山には日比野が勝ち残っています。
ムラデノビッチはサッカリを下していますが安定感についてはまだ信用できない面があるので、荒れた試合になれば日比野にもチャンスはあると思います!
次にボトムハーフ、まずは上の山から。
この山については正直大坂の力が抜けていると思います。
対抗はムグルサ、クビトバとなりますが、大坂が崩れない限りは少し厳しいと言わざるを得ません。
それくらい1Rの大坂のプレーは良かったです。
多彩なショットはないですが、フィジカルを生かしたサーブストロークは単純ながら攻略しにくいです。
調整がしやすかったアデレード組であること、前哨戦を適度に切り上げていることなど不安要素も少なく、突発的な乱調がない限りはSFまで勝ち残ると思います。
2Rではスーウェイ対アンドレスクが一番興味を惹かれるカードですね。
初戦で好調のピロンコバを破った稀代のテクニシャンスーウェイに対し、怪我からの復帰空けで勝利したアンドレスクがどのように対応するのか、注目です。
最後にボトムハーフの下の山。
個人的にこの山が一番の激戦区と感じています。
サバレンカ、セリーナ、ハレプはSFレベルの実力がある選手ですし、それに加え去年の成長株であるシフィオンテクとリバキナ、昨年末から今年にかけて頭角を表してきたポタポワ、リー、フェロ、クデルメトワなどタレントが揃っています。
そのなかでもリードしていくのはサバレンカとセリーナだと思います。
ただこの二人にはそれぞれ懸念事項があります。
サバレンカは隔離期間による調整不足、セリーナは年齢からくる体力面です。
サバレンカが試合を勝ち進みながら調子を戻していった場合は優勝も視界に入って来るレベルだと思います。それくらい昨年末から年始にかけてのサバレンカは強かったです。
セリーナは1Rで非常にいい動きをしていましたが、加齢による体力面の不安はどうしても避けられません。
長い試合が続いてしまうとQF、SF辺りの相手でも苦しくなってくると思います。
逆に体力をそれほど消費せず勝ち上がれた場合には、いいところまで勝ち進むように思います。
ただ、ボトムハーフはSFで大坂が勝ち進んでくる可能性を考えると、サバレンカが調子を戻す方が優勝の可能性は高いかなと思います。
調子が良いサバレンカと大坂の試合はテニスファンとしてもかなり見たいカードですね!
期待しましょう!
以上、大雑把に展望を予想してみました。
こうしてみると大坂が優勝するような気がしてきました笑
大会が終わった時に振り返って全然外れてるじゃないか!となりそうですが、予想を裏切る展開というのもスポーツの醍醐味だと思うので、観戦の一つの楽しみ方と考えていただけると幸いです。
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以下大会終了後(2/21)の追記です。
上にも述べたように大坂優勝の予感していましたが、現実になりましたね。
簡単に展望を振り返ってみます。
まず、トップハーフの上の山。
バーティに不安要素があると書きましたが、QFでの敗退となってしまい、悪い予感が当たる形になってしまいました。
一方、多くの選手に勝つ抜けの可能性があるとしましたが、名前を挙げていなかったムホバの快進撃には驚かされました。
Kaプリスコバ、メルテンス、バーティを次々と破ったのは見事の一言。
ムホバはサーブ力もあり、ショットも多彩な選手ですが、ミスも多めの選手なのでGSでSFまで抜けてくるのは意外でした。
今後もこのレベルが継続できればランクを上げてくると思います。
次にトップハーフ下の山。
ここはケニンがカネピに破れたため、ブレイディが有利という予想通りの流れになりました。
その中でもペグラがスビトリーナを破るなどのアップセットを起こし、ブレイディからも1stセットをとるなど躍進を見せました。
フラット気味のストロークがサーフェスに合っていたと思います。安定して上位にくるかはわかりませんが、シードダウンを起こすポテンシャルは証明できたと言って良いでしょう。
ボトムハーフは注目していた大坂、セリーナ、サバレンカがQFまで勝ち進んできました。
ここでセリーナがサバレンカを破ったことで大坂が有利になったというのも事前展望のとおりだったように思います。
セリーナはハレプ戦からサーブの速度が落ちており、本人のインタビューから意図したものでないという事情が語られるなど、やはり加齢による体力への影響があったと考えられるでしょう。
その状態で万全の大坂の相手は少し荷が重かったと思います。
ブレイディは今回コロナウイルスのプロトコルにより2週間の完全隔離を受けた選手の一人であり、試合を見ていてもいつもよりミスが多く、やはり調整不足は否めないといった印象でした。
ムホバは確かに好調でしたが、ブレイディのストロークが去年の全米レベルであったならここまで苦戦することなく決勝へとコマを進めていたように思います。
本調子でないブレイディと今大会の大坂となれば、大坂に分があるのは明らかでした。
大会通じてみても大坂のパフォーマンスは頭一つ抜けていて、この調子が維持されるなら少なくともハードコートでは中々負ける姿が想像し難い、そんなレベルに来ていると感じます。
今大会の大坂に強さに関しては時間があれば別記事で検証したいと思います。
今後、大坂が大きな支配力を示すことは間違いなさそうですが、それに対抗する選手たちもこの大会で多く見られました。
長らく頂点不在と言われていた女子シングルスですが、今回の大坂の優勝で明確に大坂を中心に包囲網が敷かれるという図式になってくると思います。
筆頭はサバレンカかなと思っていますが、バーティやシフィオンテクなどが組み立てで崩していくという場面も期待したいところ。
今後、それぞれの選手たちがどのようなアプローチで大坂攻略を狙うかという視点で見ていくと面白いかもしれませんね。
以上、長くなりましたが今後のテニス観戦の一役に立てれば幸いです。
イガ・シフィオンテク(Iga Swiatek)の全仏初制覇を検証する
コロナウイルスのパンデミックによって、昨年までとは大きく異なる環境の中での実施となったツアー。
その中でも今年最後のGSである全仏オープンで18才のシフィオンテクが全試合ストレートで優勝したことは衝撃的なニュースだったように思います。
シフィオンテクは昨年から注目されてきた選手でしたが、今年中にGSを(しかも1セットも落とさず)勝つとは流石に思っていませんでした。
そこで、シフィオンテクの圧勝劇を検証し、 どのように変化したのか、また、今後の展望も考えてみたいと思います。
○圧巻だった全仏でのパフォーマンス
まず、今回の全仏オープンの主要スタッツを一部昨年のスタッツと比較したものを御覧ください。
昨年のWTAのデータと比べると、サーブ・リターンともにポイント獲得率が上昇している事がわかります。
まず注目したいのはサービススタッツです。
サービスの優位性が男子に比べて低い女子において、クレーコートという遅いサーフェスはサービスポイントの獲得率がなかなか上がってこない傾向があります。
その中で今大会のシフィオンテクの1stサーブポイント獲得率が67%、2ndサーブポイント獲得率が61%というのは特筆すべき点と考えます。
シフィオンテクのサービススピードの平均は1stが150km中盤、2ndが120km中盤と決して速い部類ではありません。
参考として去年(2019)の全米の大阪とガウフのサービススピードの値を再掲しておきます。
tennisandlespen.hatenablog.com
この二人と比較するのは酷かもしれませんが、今後のナンバーワン争いの相手という視点でみると、サービスの速度ではシフィオンテクが劣っていると言えます。
しかし、そのサービス速度に比して今回の全仏でのシフィオンテクは上記のような高いポイント獲得率を残しており、1試合あたりの非ブレーク数も1.7と驚異的な数字を残しています。
特にハレプ戦では一度のブレークも許さないで勝利しており、今大会を通じてサービスゲームの安定感が際立っていました。
では、シフィオンテクはどのようにしてサービスポイントを獲得していたのか、ポイント獲得内訳を見ながら考えてみたと思います。
○サーブの優位性を活かすプレースメント
上記は今大会のシフィオンテクのサービスゲームのポイント獲得内訳です。
サーブを1本目と考えて4本目までに獲得したポイントをShort、5〜8本目までのポイントをMedium、それ以上をLongと分類しています(この分類は全仏の公式HPに依っています)。
これを見ると、シフィオンテクはサービスゲームにおいて6割弱のポイントを1〜4本目までのショートポイントで獲得している事がわかります。
先に述べたようにシフィオンテクのサービススピードはそこまで速くなく、エースの数も多くはありません。
その中でショートポイントが多いということは、実行できる身体能力・技術を前提とした上で、サーブの選択からの3球目までのプレースメントが非常に優れているといえるでしょう。(※ここではプレースメントを制球・ショット選択を含めたものとして使用しています)
実際試合を見ていても、相手のリターンを予測した上でサーブからの3球目を多彩なショットでウィナーにするという場面が多く見られました。
それは1stサーブのみならず2ndサーブにおいてもコース・球種を操り、その後の展開の主導権を握っていたように思います。
もちろん、ストロークの力強さやアングルへのコントロールなどの能力の高さもあるのですが、場面に応じたショット選択の妙がシフィオンテクの強さの基本であると考えられます。
全試合を通じてのネットプレー成功率が79.3%と高水準であることも、プレースメントの良さを表しているといえるでしょう。
○劇的な伸びを見せたリターンスタッツ
プレースメントの良さという点では、サービスゲームのみならず、リターンゲームにおいても発揮されていたように思います。
以下はリターンゲームにおけるポイント獲得内訳です。
リターンゲームにおいて、相手のサービスで後手に回ってしまうと、どうしても長いラリーに持ち込まないとポイントが取れないという展開になりがちですが、今大会のシフィオンテクはリターンゲームにおける獲得ポイントの5割近くがショートポイントという驚きのデータが残っています。
これは相手のサーブに対して2本目のリターンからポイントに繋がる確率の高いショットが打てているということだと考えられます。
特に2ndリターンポイント獲得率68.3%と驚異的な数字を叩き出しているように、試合を見ていても相手の2ndサービスに対して攻撃的なリターンを成功させることで、少ないラリー数でポイントを奪うことに成功していました。
このような結果も、相手のサービスへの読みとショットのプレースメントを両立するからこそ残せたものと言えるでしょう。
○抜群の安定感
もう一度最初に載せた図を見てみましょう。
青いグラフの頂上付近にある黒線の棒は全7試合の分散を表しています
分散とはデータの散らばり具合を表す数値で、その幅が小さければ散らばりが小さいことを表します。
この分散を見ると、シフィオンテクは全数値において分散の値が小さいことがわかります。
つまり、今大会のシフィオンテクは対戦相手に依らずに良いスタッツを残し続けていたと言えます。(全試合ストレート勝ちなので当然といってはその通りですが)
この対戦相手の中には、リターン巧者のボンドロウソバ・ハレプ、変則的なプレースタイルのシェイ・スーウェイ、今大会粘り強いストロークで勝ち残っていたトレビザンなど、バラエティに富んだ選手たちがいましたが、にもかかわらずシフィオンテクは安定して非常にレベルの高いプレーをし続けていました。
相手に対して適切なプレースメントを安定して遂行することができた、これが今大会のシフィオンテクの強さだったとデータからも考えることができるでしょう。
スポーツ心理学の専門家をチームに入れていることがニュースにもなっていましたが、メンタルトレーニングの効果もプレーの安定性に結びついているのかもしれませんね。
○シフィオンテク時代は来るのか?
結論からいうと、ポテンシャルはあるが現環境で飛び抜けた1位となれるかは疑問符、と考えています。
上記のように、シフィオンテクは相手に対し適切なプレーを選択し、それを安定して遂行することで今大会を制したと考えられます。
しかし、組み立てでポイントを取る選手であるがゆえに、相手が早いタイミングで勝負に来るパワーのある選手相手だと攻勢に出る前に主導権を握られてしまうおそれが生じてしまいます。
今大会ではサーフェスや環境の影響もあり、全体的にスローな試合展開となりがちであったため、シフィオンテクは自らの組み立てを仕掛ける時間がありました。
しかし、多くのツアーで用いられるハードコートでは、サーブもしくはリターンの一球目から強力なショットを打てるプレーヤーが多く存在します。
そのようなプレーヤーはストロークでも劣勢の状態からウィナー級のショットを打ってくることも多いです。
そうなった場合に、フィジカル面で対抗していくことができるかが、今後のシフィオンテクの課題となると思います。
先の全米でのアザレンカ戦などは、組み立てで綺麗にポイントを取りながらも勝ちきれない試合の典型のように思います。
以上、少し辛めのことを言ってきましたが、シフィオンテクがNo1候補であることは疑っていません。
まだ若い彼女はフィジカル的にもまだまだ伸びしろがあるであろうし、多種多様なショットやプレー選択の上手さという、強力な武器も持っています。
非常に美しいポイントのとり方をする選手で、観戦していても楽しい選手なので、これからも多くの面白い試合を見せてくれることだろうと思います。
大坂、ケニンなどと一緒にツアーを盛り上げていってもらいたいですね。
最後にプレー集を。多彩なショットを操っていることがわかりますね。