ニューボールはキープしやすいは本当か?(2021クレーコート編)
ある日、NHKBSでマスターズローマの中継を見ていたときのこと。
解説者の方が
「ここはニューボールなのでブレークは難しいですよ」
といった内容の発言をされていて、確かによく聞く話だと思ったのですが、本当にそういう傾向ってあるのかなぁと気になってしまいまして、だったらちょっと調べてみようじゃないかと思い立ったわけです。
そこで、ローマから全仏までのクレーコートシーズンが一段落したところで、2021年のクレーコートシーズンにおけるニューボールの影響についてまとめてみました。
先に結論から言うと
「男女ともにニューボールのゲームは他のゲームに比べてキープしやすい(ブレークされにくい)」
(※ただし女子は有意な差かは不明)
という傾向が見られました。
NHKの解説の方は正しかった笑(疑っていたわけではありません)
ただし、以下の点に留意が必要です。
① あくまでクレーコートかつローマから全仏まで限定の結果であり、その他のコートは今後に検証予定
② 大会ごとのボール・サーフェスの違いや選手ごとの特徴により短期的な傾向とは一致しない可能性あり
③ 試合数の関係で全仏の影響が大きくなっている
④ ③に関して男子は5セットマッチであり、その影響は考慮していない
⑤ ツアーレベルの大会のみの結果であり、下部大会は射程外
では、データを載せながら結果を見ていきたいと思います。
○ATP(男子ツアー)
まず、男子についてです。
ローマから全仏以前までに行われた大会は、ローマ、ジュネーブ、リヨン、パルマ、ベオグラードの5大会です。
以下のニューボール関係の数値をグラフにすると以下のようになります。
縦軸はブレーク率、
緑はニューボールのゲーム(new ball)、
灰はニューボール直前のゲーム(before new ball)、
青は前2つを除いたその他のゲーム(other)を表しています。
縦軸がキープ率でないのは、ブレークの数を数えるほうが楽だったという極めて利己的な理由です、ご容赦ください。
この中で一番試合数が多いのはマスターズであるローマで、結果も最も予想に近い形になっています。
すなわち、ニューボールのゲームが最もブレークされ難く(キープしやすく)、その直前のゲームが最もブレークされやすい(キープし難い)という結果です。
その他の4大会については試合数が少なく、極端な数値が出ることが予想されるため、個々の言及は避けますが、ベオグラードの数値がなかなかに異様で面白いですね笑。
男子ツアーレベルで平均ブレーク率が40%を超えるのは中々ないと思います。
全仏前週ということで選手のレベルが少し低いこと、ジョコビッチが決勝まで4試合戦っていること等が影響していると考えられます。
次に全仏の結果です。
男子のGSは5セットマッチということもあり、全仏だけでほか5大会の合計ゲーム数を超える数となっています(全仏=約4200、その他=約3600)。
また、全仏は試合数も多いため、勝ち上がった選手の比重が薄まるのでより全体的な傾向が反映されやすいと思われます。
結果としてはローマと同じ関係、すなわち、ニューボールのゲームが最もブレークされ難く(キープしやすく)、その直前のゲームが最もブレークされやすい(キープし難い)が確認されました。
ローマと全仏の共通点としては
①試合数が多い
②トップ選手が多く参加している
が挙げられ、ここから①標本数が多くなったことで傾向が収斂した、②実力のある選手に強くこのような傾向が現れる、といった仮説が思い浮かびます。
②については、
1)トップに近い選手ほど強力なサーブを有している可能性が高い
2)一般的にニューボールの方が速度が出やすく跳ねやすい
ということを前提とすると、ニューボール時の方がリターンも難しくなると考えられるため、採りうる仮説と言えるのではないでしょうか。
この場合、ゲーム・ポイントごとのリターンミスのデータがあれば良いのですが目視以外で計測できるサイトとかあったら教えていただきたいです^^
男子のまとめとして、全大会を合計したグラフを載せておきます。
5セットマッチに加え試合数の多い全仏の影響が大きいのは留意した通りです。
ちなみに数値は左から24.41%(青)、22.49%(緑)、26.73%(灰)となっています。
ということは、ニューボール前後で約4%ブレーク確率が減少していたことになります。
この4%と大きいと見るか小さいと見るかは個人差がありそうです。
直近一年のブレーク確率を選手ごとに見ると、 平均30%を超えているのがナダル(34.3%)、シュワルツマン(33.6%)、ジョコビッチ(32.5%)の3人で、そこにコルダ(28.3%)、マルティネス(28.2%)、メドベデフ(28.1%)、フォキーナ(27.6%)と続きます。
このうち上位20人ほどが4%ブレーク率が上がれば30%と超えると考えると、この4%は大きいのではないかと、個人的には感じています。
○WTA(女子ツアー)
続いて女子についてです。
まずは全仏前のローマ、パルマ、ベオグラード、ストラスブールの4大会について。
ローマ、パルマ、ストラスブールではニューボール時が最もブレーク率が低いという結果になっています。
特に試合数の多いローマで男子と同様の傾向が見られたのは、示唆に富みます。
女子は男子に比べてブレーク率が高いので、極端な数値が出ることも予想していたのですが、比較的穏当なグラフとなっています。
続いて全仏の結果です。
女子はGSも3セットマッチなので、男子に比べると標本数は減ってしまうのですが、それでも2500以上のゲームの合計がやや予想と異なる結果に収斂しているのは意外でした。
ちなみに数値は左から36.49%(青)、34.73%(緑)、31.54%(灰)となっており、ニューボール前後で約3%ブレーク確率が増加していたことになります。
ニューボール時にブレーク率が下がった理由については説明が難しいですが、
(前提)女子はサービスの威力が男子ほど高くない
→リターンで主導権をとる事が増える
→ニューボール時にリターンの速度が上がり、サーバーが返球に窮する
→結果としてブレークが増える
といったところでしょうか。かなり怪しい推論です笑。
後述するように女子の合計値では男子ほど見られなかったことから、全仏は誤差と説明したほうが無難かもしれません。
女子のまとめとして、こちらも全大会の合計値を載せておきます。
数値は左から37.68%(青)、34.77%(緑)、35.96%(灰)となっています。
結果としてはニューボール時が最もブレークされにくいということになっていますが、男子の結果と比べると以下の違いがあります。
1)ニューボール前後では約1%ほどしか変化がない
2)ニューボール直前がその他よりもブレークされにくい
この2つの違いから、女子は男子に比べボールの交換の影響を受けにくいのではないかと考えることができます。
その理由については、やはりサーブの威力が男子に比べて劣るため、ボールの変更による威力の上昇がポイント獲得まで直結しないということが考えられます。
ただ、ローマ、パルマでは男子と同様の傾向が見られているだけに、今シーズンが異例の結果なのか、一般的な傾向なのかは定かではありません。
全仏でバーティ、大坂、サバレンカといった強力なサーブを持つ選手が早期に敗退してことも影響しているかもしれません。
引き続き、違うサーフェスの結果も調査しながら観察していきたいところです。
○まとめ
「男女ともにニューボールのゲームは他のゲームに比べてキープしやすい(ブレークされにくい)」
(※ただし女子は有意な差かは不明)
という結果になりました。
特に男子は比較的この傾向が強かったので、試合を見るときに意識すると面白いかもしれませんね。
引き続きグラスコート、ハードコートと調査を継続していきたいと思います。
随時、大会ごとの結果をtwitterの方に上げていこうと思っているので良かったら御覧ください。