ブレークポイントでの結果は何を表すのか?(ATP&WTA 2021)
テニスの試合を見ていて、盛り上がるシーンの一つにブレークポイントがあります。
ウィンブルドンでのビッグサーバー同士の戦いでもない限り、相手よりも多くブレークした選手が勝つのがテニスというスポーツだと思います。
そうなると必然的にブレークポイントは選手たちが集中するポイントとなりがちですし、見る側としても手に汗握ることが多い場面です。
そこで、ブレークポイントで良い結果を出せる=強いという等式が成り立つのでは?と思い、少し調べてみることにしました。
具体的には、今年のATP&WTAのそれぞれランキングトップ100の選手たちの2021シーズンのブレークポイントでの結果を調べて、通常時との差やランキングとの関係を見ていきたいと思います。
○データについて
今回主に使うデータはATPとWTAに載っているブレークポイント獲得率(以下「A」とも表す)です。
この(A)ブレークポイント獲得率とその他のリターンゲームでのポイント獲得率を比較することでブレークポイントでの結果を考えていきたいと思います。
その他のリターンゲームでのポイント獲得率ですが、今回は、
1stリターンポイント獲得率×トップ100の1stサーブ成功率+2ndリターンポイント獲得率×(1-トップ100の1stサーブ成功率)
=その他のリターンゲームでのポイント獲得率(以下「理論値」及び「B」とも表す)
と求めることにしました。
リターンポイント獲得率自体はATP&WTAのHPにも記載されていますが、今季の対戦相手のサーブ成功率が偏っている場合も考えて上記の計算を行いました。
(結果としてほぼほぼ変わらない数値になったのでやる意味があったかは疑問です笑)
注意点としては公式Statsのリターンポイント獲得率の中にはブレークポイントの場合も含まれてしまっているので、完全に正確な計算は出来ていません。
全体のリターンポイントの中におけるブレークポイントの割合は少数であるため大きな影響はないと思われますが、その点留意ください。
それでは結果について見てみましょう。
○ATPにおけるブレークポイントの結果
まずはATPにおいてブレークポイントでの結果が良かったと思われる選手、悪かったと思われる選手をそれぞれ上位10人ずつ載せてみます。
()内は世界ランク(2021.11.28時点)です。
上記の「(A)プレークポイント獲得率ー(B)理論値」の値がブレークポイント時に通常よりもどのように結果を出したかを表していると考えられます。
プラスになれば通常時よりも良い結果となっており、マイナスならその逆ということです。
ちなみにATPトップ100の選手たちの平均の(A-B)の値の平均は2.17でした。
つまり、ブレークポイントでは通常のリターンポイントよりも約2.17%多くリターン側がポイントを獲得しているということになります。
一般的にブレークポイントではサーバー側にプレッシャーがかかると考えられるため、リターン側のポイント獲得率が上昇するのは感覚的にも適合するところです。
その中で上記のように(A-B)がマイナスになってしまう選手達は他の選手たちに比べてかなりアドバンテージを失っていたと考えることができそうです。
次にWTAの結果についても見てみたいと思います。
ちなみにWTAトップ100の選手たちの平均の(A-B)の値の平均は1.56でした。
ATPの2.17に比べるとやや控えめですが、それでもブレークポイントにおいてはリターン側が有利になっていると言えそうです。
○結果を考える
さて、上記の表をどう考えたら良いでしょうか。
まず気づくのは、この表の順番がランキングと対応していなさそうだな、ということです。
ということで世界ランクと「ブレークポイント獲得率-理論値(A-B)(Gap値)」の相関関係を調べるために単回帰分析を行ってみました。
結果として、相関度合いを表す相関係数は
ATP=-0.142645・・・
WTA=0.00997・・・
となり、有意とは言えないという結果に。
(※±1に近いほど正または負の相関関係がある)
グラフを重ねてみても
あまり相関関係が無いということが見て取れます。
つまり、
ブレークポイントでの結果と世界ランクにはあまり関係がない
ということが言えそうです。
もっと言えば、世界ランクは長期的なスパンでの選手の強さを計る指標であることから、
ブレークポイントでの結果は長期的に安定した強さとは関係がない
と考えることが出来そうです。
○Gap値とは何を表すのか
考えてみたところ、どうやら長期的な強さとブレークポイント獲得率はあまり関係がなさそうということになりました。
では、今回求めた「ブレークポイント獲得率-理論値(A-B)(以下「Gap値」とする)」は何を表しているのでしょうか。
強さとはあまり関係が見られないことは前述のとおりです。
そうなると、全てのプレーヤーにおいてBP獲得率はリータンポイント獲得率+1~2%に平均が収束するものであり、誤差的に散らばっているだけなのではないか?
という仮説が浮かんできました。
これを言い換えれば、
Gap値は正規分布の形に収束するのではないか?
というものです。
というわけで正規分布かどうかの検証をしてみます。
今回は散布図を用いて視覚的に判断する方法を取りたいと思います。
以下はGap値とその期待値を散布図で表したものです。
どちらの散布図もサンプルが直線に沿ってプロットされているように見えることから、これらの分布は正規分布になっていると言えるでしょう。
ちなみにグラフ中で外れ値っぽいプロットには選手名を載せておきました。
後のグラフでも言及していますが、特にGriekspoorとRaducanuは正規分布的にはほぼほぼ0に近い確率の結果を残していることになるため、将来的には平均への収束が見られる可能性が高そうです。
以上のように、男女ともにGap値は正規分布になっている事がわかりました。
そうすると
「BP獲得率はリータンポイント獲得率+1~2%に平均が収束するものであり、誤差的に散らばっているだけなのではないか?」
という仮説にも根拠が出てきたと思います。
ただこの仮説は要するに
BPだけ極端に強いor弱い選手は基本的に考えづらく、長期のリターンポイント獲得率の方が重要である
というある意味常識的なことを言っているだけなので、そりゃそうだ、という自明の結果と言われてしまえばそれまでですね笑。
もちろんプレースタイルや作戦によってある程度BPで良い結果を残し続ける選手もいるとは思いますが(メドヴェデフなどはそんな気がしますね)、概ね平均的な数値に収束するのではないかということです。
おまけとして、以下はギャップ値を正規分布で表したグラフです。
ATP WTA
平均=2.17 平均=1.56
なのでWTAの方が散らばりが大きいですね。
縦軸が確率なので、前述の通りGriekspoorとRaducanuの異常さが目立ちます。
この二人の数値に何か理由がある故なのか、それともとんでもない幸運or悪運なのかは来シーズンのプレーを待ちたいと思います笑。
○まとめ
今回の調査から考えられそうなことは以下の2つです。
すなわち、
①ブレークポイントでの結果は長期的に安定した強さとは関係がない
②BPだけ極端に強いor弱い選手は基本的に考えづらい
ということです。
個人的には、選手に対して調子が良いor悪いと言うときにも、今回のGap値のように少し運の要素もあるのかもしれないと思いました。
例えば、BPでものすごい良い結果が残れば試合にも勝つ可能性は高いですし、そのような選手は調子が良いと言われるでしょう。
反対に、平均的にポイントが取れていたとしてもBPを取れずに試合に勝てないという場合、調子が悪いという言い方をされることが多いような気がします。
もちろん、肉体的な疲労・故障の有無や精神的なアップダウンも調子に含まれると思いますが、それ以外の部分でも調子と呼ばれるものがありそうという発見は、自分の中では興味深かったです。
それにしても、RaducanuはこのGap値でGSに勝ったのは凄いですね笑
以上!