2020注目選手その3 コリ・ガウフ(Cori Gauff)
ハッピー・バースデイCoco。
というわけで、3人目の注目選手は、彗星のごとく現れた若きニュークイーン候補、
コリ・ガウフ(愛称ココ)です。
あまりにも注目されてしまったのでちょっと避けていたのですが、2ndsetの分析をしてみて、やはりガウフは外せないなと感じたので、遅ればせながら書いていきたいと思います。
tennisandlespen.hatenablog.com
今日が誕生日で16才になったガウフですが、昨年はリンツで15才6ヶ月25日という若さで優勝したことで一気に注目度が上がりました。
日本人からすると、全豪オープン3回戦で大坂なおみに勝利したことが記憶に新しいかと思います。
昨年全米で大坂と対戦したときには、大坂の1stサーブとストロークの威力に押される場面が目立っており、力負け、という印象だったので、勝つのはもう少し先になるかと思っていたのですが、(大坂が崩れてしまった側面があるとはいえ)まさか数ヶ月で勝利するとは思いませんでした。
では、ガウフとはどのような選手なのか、強さの理由はどこにあるのか、データを見ながら考えていきたいと思います。
○イン率よりも獲得率
まず、サービススタッツから見ていきます。
昨年からの変化でみると、1stサーブのイン率のみが減少、その他の各サーブのポイント獲得率とサービスゲーム獲得率は上昇となっています。
ちなみに1試合あたりのダブルフォルト数も昨年の4.75本から6本に増えています。
ということは、1stと2ndどちらのサービスにおいても、イン率が下がっているのに対しポイント獲得率はどちらも上昇しているということになります。
つまりガウフは、サーブにおいては確実に入れることよりも、ポイント獲得率を上げる、という作戦をとっている可能性が高いといえます。
ここで、対大坂なおみの1stサーブポイント獲得率を昨年の全米と今年の全豪で比較してみると、昨年はわずか42%だったのに対し今年は76%と大きく数字を伸ばしており、上記のような作戦をとっていたとするなら、それは成功していたと言えるでしょう。
○高速2ndサーブ
もうひとつ、全豪でのガウフのデータで面白いのは2ndサービスの平均速度です。
以下は今年の全豪における大坂とガウフの1st及び2ndの平均速度をグラフにしたものです。
この二人の選手に共通するのは、ともに1stの速度が速いこと。
アベレージ170kmを超えてくる選手は女子では貴重な存在です。
全豪でも、カロリーナプリスコバやリバキナなど一部の選手だけが記録しています。
そんな強力な1stを持つ二人ですが、2ndの速度を見るとなんとガウフが大坂を20km以上も上回っています。
これは大坂の2ndが1stの割に遅いということもありますが、そもそもガウフが速すぎです。
女子選手であれば1stの平均速度が150ということもよくあることなので、対戦相手からすれば、いつもの試合であれば1stサーブレベルの速度の2ndサーブが飛んでくる、ということなのでリターン側へのプレッシャーも相当なものであると考えられます。
もちろんサービスは速度が全てではないですが、実際に2ndサーブのポイント獲得率が昨年よりも上昇しているので、ガウフにとっては速度がプラスに働いていると考えられます。
○課題も見えるリターンゲーム
以上の順調な成長を見せているサービスとは裏腹にリターンスタッツは少し落ちています。
もちろん、今季はまだサンプル数が少ないことに加え、相手のレベルも初めからツアーレベルであることは無視できないと思います。
ただ、リターンゲームの獲得率25%は少し悪すぎです。
WTA全体の位置づけを前回作成した散布図で確認してみます。
tennisandlespen.hatenablog.com
右下の赤丸が2020ガウフですが、サービスゲームは一躍トップグループの仲間入りを果たしたものの、リターンゲーム獲得率は最低クラスになっています。
今後はリターンゲームでのアプローチをどうするかがガウフの課題となりそうです。
全豪での大坂戦では、相手の2ndを攻撃することで勝利を掴みましたが、続くケニン戦では好調ケニンにロングラリーに持ち込まれ、なかなか優位に立つことができずに敗戦となりました。
甘い2ndをしっかり攻撃する能力はリターンゲームにおいて重要な能力なので、それが上達していそうなのは良い傾向と言えます。
また、ケニンには通じなかったものの、ガウフは決してロングラリーに弱い選手ではありません。
足が速いためコートカバーリング能力も広く、組み立ての中からネットに出るポイントの獲得率も高いです。
今後は1stサーブに対する2球目のリターンをよりディフェンシブに打てるようになれば、リターンスタッツも向上してくるようにも思います。
○まとめ
現在はまだリターンに弱さがある選手ですが、16才にして既にそれくらいしかわかりやすい弱点がないともいえます。恐ろしい。
よく野球では速い球を投げることと遠くへ飛ばすことは才能だ、と言われることがあります。
テニスにおいては速いサービスを打つことが才能だ、と言えるように思います。
ガウフは女子選手の中では貴重な強力なサービスを持っている選手で、それだけでスペシャルな才能を有しているといって良いでしょう。
16才にして強力なサービス力と、安定した技術を見せるガウフ。
彼女が今年、そしてその先にどのようなテニスを見せてくれるのか、1テニスファンとしてどうしても大きな期待をしてしまうのでした。
散布図で見る選手別特徴(2020WTA編)
残念ながらコロナウイルスの世界的な流行によって、当面、テニスを見ることが難しい状況となってしまいました。
ただテニスが見れないこの機会、せっかくなのでなにかやろうということで、今回はざっくりですが、選手の特徴をグラフ(散布図)にして視覚的にわかりやすくしてみようと思います。
日本ではまだまだ知名度が低いWTAですが、少しでも選手のタイプが分かれば観戦しやすくなるのではないかと思います。
また、日本では大坂選手の試合を見る機会が多いと思いますが、対戦相手の傾向を把握していれば戦略的な見方など、一味違った楽しみ方ができるとも思います。
というわけで、今回対象とするのは現時点での世界ランクでトップ64までの選手。
なぜ64かというと、このランクまでの選手を把握していれば、大体どの大会でも楽しめるということと、これ以上選手数を増やすと図が非常に見にくくなるためです^^
使うデータは今回は大まかな特徴ということで、
横軸:サービスゲーム獲得率
縦軸:リターンゲーム獲得率
で作成しました。
対象となる期間は2019年~2020年3/13日まで、データはWTA公式サイトからです。
今年のデータだけだと母数が少なすぎるため、去年のデータも合算することにしています。
また、去年と今年のデータを合算するに当たり、年月及び期間による重み付けをして調整しています。
具体的には以下の通りです。
○去年のデータはについては、時間経過を加味し0.75倍する。
0.75という数値は他種目でのセイバーメトリクスなどで過去の成績を考慮する場合の係数を参考にしました。
○今年のデータは母数が少ないことに鑑み0.25倍する。
0.25は期間的にツアーの1/4くらいの期間が経過していることを理由としています。
なお、アンドレスクは怪我のため、今季まだ試合未出場のため、去年のデータをそのまま使用しています。
以上により作成したものが以下の散布図になります。
赤線はそれぞれの中央値となっています。
Service Game Won : 69.025(AlexandrovaとVan Uytvanckの間)
Retuen Game Won : 34.9375(BencicとBouzkovaの間)
となっています。
これを大まかに分類すると、
①:サービスゲーム、リターンゲームともにトップ平均以上の能力がある。
②:リターンゲームに強みがあるが、サービスゲームが不安定である。
③:サービスゲームは安定しているが、リターンゲームに弱さがある。
④:サービスゲーム、リターンゲームともにトップ平均以下の能力である。
となります。
①に分布されているということはサービスゲーム、リターンゲームともに高い割合で獲得して言ということなので、当然試合にも勝ちやすくなります。
ということで、トップ10に名を連ねている選手が順当に分布されています。
その中でもセリーナが圧倒的です。
年齢的な問題から出場試合を絞ってはいますが、出場した試合では未だに支配的なパフォーマンスができていると言って良いでしょう。
②、③には強みはあるものの、あと一歩トップ10に届かないという選手が散見されます。
リターンに強みを持つボンドロウソバやアニシモバ、サービスに強みを持つコンタ、ゲルゲスなどは、反対のゲームでのパフォーマンスに課題がある選手の代表だと思います。
④に分布される選手の中にも、今年の成績だけをみると上位に食い込んできそうな選手が多くいます。
例えば、ジャバーは最近、非常に高いパフォーマンスを続けていて、今季の成績だけなら①よりの③に分布されている選手です。
このような選手は今後一気にランクを上げてくる可能性があるので注目です。
また、ガウフも④ですが、そもそも15才でトップ選手と比較されている事自体がかなり異常ですし、サーブの速度や足の速さを考えても、将来的にかなりの確率で①に分布される選手になるでしょう。
テニスは画面上の動きが少ないスポーツなので、慣れていないと退屈に写ってしまいがちですが、
「この試合はサーブが強い同士の戦いだから一つのブレークでも大きいな」
「サーブが得意な選手相手にリターンが選手どう攻めるのかな」
などど考えながら見ていくと、一つ一つのプレーもより楽しんで観戦できるのではないでしょうか。
上の散布図が、そのような見方のきっかけになれれば幸いです。
2020注目選手その2 エレナ・リバキナ(Elena Rybakina)
二人目の注目選手はこちらも20才のエレナ・リバキナです。
これは、普段からツアーを見ている人であればもうお馴染みの選手でしょう。
このリバキナですが昨年から驚異的なスピードで世界ランクを上げていることでも注目されています。
去年だけで一気にトップ100どころか30台までランクを上げ、更に今年も既に17位までランクを上げています。
さらに今年に入ってからも4大会で決勝に進出し、うち1回優勝。破れた相手もバーティ、ベルテンス、ハレプ、アレクサンドロバであり、いずれも実力者です。
つまり、一定以上の実力の選手以外にはほぼ負けない安定感があるといえるでしょう。
まだ若いのに安定感があるというのは驚異的です。
では、リバキナの強さをスタッツを通して検証してみましょう。
○スタッツ検証
まずはリターンスタッツから。
2019 2020
1st Return Points Won 38.3%→36.3%
2nd Return Points Won 56.5%→53.8%
Break Points Lost 43.6%→35.1%
Return games Won 37.5%→33.6%
グラフにするとこうなります。
全体的に昨年に比べて数値が下がっています。(※Break Points Lostはブレークポイントを落とす割合なので少ないほうが良い指標です。)
○スタッツ悪化の理由
ではリターンゲームでのパフォーマンスが下がっているかというと、そうではないと考えられます。
その理由は去年の急激なランク上昇です。
去年の序盤のリバキナの世界ランクは前述の通り175位でした。
出場できる大会も下部大会であり、対戦相手のランキングも100以下がほとんどです。
つまり、去年のスタッツには下部大会での結果も含まれていることになります。
それに比べて今年のリバキナはWTAの本戦にストレートインできるだけのランクでシーズンをスタートしているため、当然スタッツも本戦に出場するような高ランクの相手に対して残したものが記録されます。
ということは、当然としてスタッツも悪化することが予測できます。
ここから、上記グラフにあるようなスタッツの悪化は
対戦相手の実力上昇によるものであり、リバキナのパフォーマンス低下によるものではない
と考えることが妥当と考えられます。
○リターンスタッツはトップグループでは中の下
では、2020のスタッツはどのくらいの能力なのか、2019年の他選手のスタッツと比較することで考えてみます。
エリナ。リバキナ(2020)
1st Return Points Won 36.3%
2nd Return Points Won 53.8%
2019年にこれと類似したスタッツを残した選手は、上位に限るとこの二人。
キキ・ベルテンス(2019)
1st Return Points Won 36.4%
2nd Return Points Won 53.8%
ペトラ・クビトバ(2019)
1st Return Points Won 36.2%
2nd Return Points Won 54.3%
なお、上位に限らなければ、このくらいのスタッツはランク30~50周辺には割と多く散見されます。(ベキッチ、クデルメトバまたはピーターソンなど多数)
ベルテンス、クビトバに共通するのは強力なサーブを持っているということです。
ともに1st Serve Points Wonが70%を超えています。
逆に言えば、このレベルのリターンスタッツの選手はサービスゲームで優位性を持たなければ上位に進めないということでもあります。
では次にサービススタッツを確認してみましょう。
○安定したサービスゲームの秘密
2019 2020
1st Serve in 58.4%→60.2%
1st Serve Points Won 68.2%→69.6%
2nd Serve Points Won 50.2%→52.5%
Service games Won 73.7%→79.0%
グラフにすると
サーブスタッツは対戦相手のレベル上昇にも関わらず、いずれも去年から伸びています。
好調の鍵はサービスゲームということですね
先程の二人と比較してみましょう。
キキ・ベルテンス(2019)
1st Serve in 57.3%
1st Serve Points Won 72.1%
2nd Serve Points Won 47.1%
ペトラ・クビトバ(2019)
1st Serve in 60.8%
1st Serve Points Won 71.3%
2nd Serve Points Won 49.8%
この二人と比較しても、1stでのポイント獲得率は下回るものの、1st成功率が60%を超えるためほぼ同程度と考えてよいでしょう。
そして、2ndでのポイント獲得率では完全に上回っています。
特に、2ndでのポイント獲得率52.2%は、昨年のトップ50の誰よりも高い数値です。(2位はバーティの51.4%)
ここから、今季のリバキナのサービスゲームの強さには2ndサーブでのポイント取りの上手さが影響していると考えられそうです。
以上をまとめると、今季のリバキナは
「平均レベルのサービススタッツと1stサーブスタッツを有し、2ndサーブのポイント獲得率でアドバンテージを奪っている」
と言えるでしょう。
○今後の見どころ
リバキナはこのままの調子でも昨シーズンのベルテンス並みの成績を残すことは十分考えられます。
課題とされていたトップ10勝率の低さも、先週のドバイでケニン、プリスコバに勝利したことで改善の兆しを見せています。
今後改善が見込まれそうな点は、1stサーブでのポイントの取り方になると思います。
以下は2019年のトップ10と今年のリバキナの1stサーブが入る確率とポイント確率をかけた数字のグラフです
ご覧の通り、リバキナは1stサーブの確率と取得率のバランスが高い方ではありません。
この中ではプリスコバが少し抜けているとして、ハレプとケニンは確率を上げて行くスタイル、セリーナと大坂は確率よりも獲得率を上げていくスタイルで数値を伸ばしています。
リバキアは身長もあり、早いサーブを打てるパワーもあるので、少し確率を落としてでもポイント獲得率を高める方向性がいいのかなと個人的には思います。
その理由として、
①2ndでのポイント獲得率が高く、1stでショートポイントを狙いにいける土台がある。
②エースの数も一試合あたり5.7本と多い部類である。
点が挙げられます。
2ndが安定していれば1stでリスクを負いやすくなりますし、エースを打てるポテンシャルがあればプレースメントを意識することでポイント獲得率を上げやすいと考えられるからです。
総じてリバキナは20才という若さにしてバランスの良い選手と言えます。
今年に入ってからは勝ち進むことが多く、過酷な日程となるシーンも多いですが、それでも体力的・精神的にタフに戦い抜けてもいます。
今後の目標はグランドスラムでの成績向上ですが、この調子で行けば上位進出も十分考えられますし、なにより今急速に力をつけている選手なのでどのように成長していくのか、今年注目していきたい選手といえると思います。
連戦の疲労の中でハレプ相手にここまで食い下がったのは見事でした!
WTA 2020シーズン序盤におけるトレンド分析(2ndset編)
引き続き、WTAのトレンドについて分析したいと思います。
今回は2ndセット編。
分析対象や手法は前回と同様に全豪までのデータをロジット分析で行いました。
tennisandlespen.hatenablog.com
分析はstataというソフトを用いて行ったのですが、その結果はこのようになります。
Probit regression, reporting marginal effects Number of obs = 247
LR chi2(4) = 312.78
Prob > chi2 = 0.0000
Log likelihood = -14.814821 Pseudo R2 = 0.9135
------------------------------------------------------------------------------
nd | dF/dx Std. Err. z P>|z| x-bar [ 95% C.I. ]
---------+--------------------------------------------------------------------
ndfssa | -.0467022 .0174898 -2.67 0.008 .002429 -.080982 -.012423
ndfspsa | -.1609177 .0472533 -3.40 0.001 .106478 -.253532 -.068303
ndsspsa | -.0580335 .0156129 -3.71 0.000 -.031984 -.088634 -.027433
stswsa | -.1391782 .0509989 -2.72 0.006 .04251 -.239134 -.039222
---------+--------------------------------------------------------------------
obs. P | .4979757
pred. P | .4786717 (at x-bar)
------------------------------------------------------------------------------
z and P>|z| correspond to the test of the underlying coefficient being 0
.
これをグラフで整理すると、
こんな感じです。
このグラフからは、2ndセットの取得に強く影響することは、
①その試合での2ndセット中に、相手よりも髙い1stサーブポイント獲得率を残すこと
②昨シーズンの1stサーブポイント獲得率が相手よりも高いこと
であると読み取れます。
では、この結果が実際の試合においてどういう形で影響しているかを考察していきましょう。
①について
ここでは、2ndサーブポイント獲得率との比較を考えたいと思います。
分析結果からは、1stサーブでのポイント獲得率で相手を1上回る方が、2ndサーブでのポイント獲得率で相手を1上回るよりも、セット獲得率に約3倍多く影響しているといえます。
これは同じ1ポイントでも、セット獲得への影響度が異なることを伺わせます。
つまり、「数字上は同じ1ポイントでも、試合に与える影響が異なる」という可能性を導くことができます。
ポイントの取り方にも良い・悪いがあるという見方ができるかもしれません。
②について
昨シーズンの1stサーブポイント獲得率が今年の試合の第2セットに影響があるというのは、少し関係の遠さを感じます。
これを頑張ってつなげて仮説を立ててみましょう。
まず、昨シーズンの1srサーブポイント獲得率が高いということは、
「その選手がサーブから組み立てる得点パターンを持っている」
と言えるのではないでしょうか。
昨シーズン全体の数値ということで、一試合二試合の話ではないので、それだけ安定して数値が高いということは、プレーヤーの中でもある程度1stサーブからポイントの取れるパターンが確立されていると考えたほうが自然だと考えられます。
では、それが2ndsetにおいて影響するのはなぜでしょうか。
仮説としては、サーブから始まるポイント獲得パターンのうち、当日に効果的なものが絞れてくるのが2ndセットなのだ、ということが考えられます。
自分の中にある得点パターンも、当日のサーブの調子、相手の反応、気候、など様々な要因から、どれが今日有効なのか、そうでないかを選別する必要があります。
その選別ができてくるのが2ndセットであると考えることは、そこまで不自然ではないのかなと思います。
と考えれば、昨シーズン、つまり過去の1stサーブポイント獲得率が現在もしくは未来の試合に対して影響するということが説明できるのではないでしょうか。
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以上、簡単な分析でしたが、2ndセットについての考察をしてみました。
シーズン序盤の限られたデータの分析なのであくまでも「トレンド」ですが、現在のWTAでは1stサーブが重要になっていると言えるように思います。
個人的には、これを受けて今後は2ndセットに各選手がどのようなサーブチョイスをしてポイントを獲得しているのか、また、それはゲーム序盤からどう変化しているのかを注目して見てみようと思いました。
2020注目選手その1 マルケタ・ボンドロウソバ(Marketa Vondrousova)
世間的には次の女子の注目選手といったらガウフ何でしょうが、あえてそれを避けて、個人的な注目選手を考えてみます。
ガウフが15才にしてツアーで勝てる選手になっているのは驚異的ですし、運動能力という点でみれば女子ツアーの中でも抜けてくる可能性は大いにあると思います。
ただ、本来若手と呼ばれ、次世代のトップ選手になるであろう十代後半〜二十代前半の選手たち。その中にも非常に面白い能力を持った選手が多く存在します。
そこで、虎視眈々と世代交代を狙っている彼女たちの中から、注目している選手を何人か紹介したいと思います。
今回は昨年の全仏の準優勝者であるチェコの20才、マルタケ・ボンドロウソバです。
ヨーロッパの方は表記が難しい。
まずは、彼女のストロングポイントであるリターンのスタッツを紹介します。
2019 2020
1st Return Points Won 43.4%→48.6%
2nd Return Points Won 56.2%→59.8%
Break Points Converted 48.9%→53.8%
Return games Won 45.6%→56.8%
まずこの中で圧倒的なのが1stサーブのリターンポイント獲得率。
43.2%というのはリターン巧者のハレプの41.6%を上回る驚異的な数値です。
もちろん2ndサーブリターンの56.2%も高い方ではありますが、セカンドを攻撃するのは女子のセオリーなので、サーブに弱点がありリターン主体で勝ち上がっているタイプの選手にはこのくらいの数値はよく見られるものです。
ただ、1stリターンが40%を超える選手は去年の世界ランクトップ50の中でもハレプとボンドロウソバの二人しかいません。
そして、リターンゲーム獲得率45.6はトップ100の中でNO1です。
これらの数値から考えると、
ボンドロウソバは去年最もリターンゲームで相手を苦しめた選手と言えるでしょう。
また、今年に入ってからもラディオノヴァ相手に無慈悲にダブルベーグルを焼くなどリターンの数値を軒並み伸ばしており、その安定したリターン力を披露しています。
先の記事でも触れているように、私は現在の女子ツアーの1stsetのトレンドをリターン力と考えており、そうするとこのボンドロウソバは1stsetにおいては最も現在のトレンドに沿った選手であるといえます。
そんなボンドロウソバ、これだけのリターンスタッツを残しながらトップ10に届かなかった原因はサーブスタッツにあると言えるでしょう。
2019 2020
1st Serve Won 63.9%→55.9%
2nd Serve Won 47.7%→43.2%
Break Points Saved 51.9%→44.4%
Service games Won 67.2%→58.3%
この中で気になるのは1stサーブポイント獲得率とサービスゲーム獲得率。
1stサーブポイント獲得率63.9%はトップ10最下位のハレプの63.4%とほぼ同等。
サービスゲーム獲得率67.2%は同じくトップ`10最下位のハレプ69.2%を下回ってしまっています。
ハレプには身長が168cmというハンデがあるため、どうしてもサービスで優位に立ち難いという事情があります。
それに対し、ボンドロウソバは身長も175cmと決して低すぎるというわけではないのにも関わらず、トップ10最低クラスのハレプと同等ないしそれ以下のサーブスタッツしか残せていません。
これを欠点ととるか、伸びしろと取るかがボンドロウソバの評価の分かれ目となるでしょう。
ポジティブな要素としては、①身長が低いというわけではないこと、②サウスポーであることが挙げられます。
ネガティブな要素としては、①昨年に左手首の怪我で離脱していること、②今年になってからもサーブスタッツが悪化していることが挙げられます。
ただ、私はボンドロウソバの今後について非常にポジティブに捉えています。
それはクリアすべきサーブスタッツのハードルが非常に低いと考えているからです。
ボンドロウソバがサーブを強化すると言っても、何もバーティや大坂なおみレベルのサービス力を習得しろと言っているわけではありません。
なんせボンドロウソバには最強クラスのリターン力があるのですから最低でもハレプ超え、欲を言えばケニン&アンドレスク級のサービスゲーム獲得率73~4%を達成すればトップ10選手となるのは難しくないと考えています。
全豪のサーブの速度では1stが150km前半、2ndが125km前後ととなっており、これだけ見てもセカンドの速度が抑えすぎに感じますし、体格を考えれば1stももう少し速度が出る気がします。
左手首の怪我の影響もまだ残っているでしょうし、今後どうサーブスタッツを変化させていくのか、それ次第では女子テニス界を牛耳るような存在になってもおかしくない、そんな期待をしたくもなる驚異的なリターンスタッツを誇る20才のサウスポー、ボンドルソバ!
最後にボンドルソバのドロップ集という超マニアックな動画を載せておきます。
マッチポイントでドロップ決めきるのは個性的!
ソフィア・ケニン(sofia kenin)は次のナンバーワンとなるか?
今年の全豪を制したニューヒロイン。
「ソフィア・ケニン」
絶対女王が不在の女子ツアーにおいて、アメリカの21歳がナンバーワンになることができるのか、去年と今年のデータ、そして全豪の試合内容を踏まえて考えたいと思います。
まずは、去年から今年の現在(2/6)までの主要スタッツの変化を見てみます 。
○サーブ系
2019 2020
1st Serve Won 66.2%→67.4%
2nd Serve Won 48% →52.3%
Break Points Saved 60% →68.1%
Service games Won 74.2%→80.7%
見事に全ての数値が向上しています。特に2nd Serve WonとBreak points Saveの数値は去年のランキングであれば全体一位の数値。
特に2ndサーブで5割を超えるポイント獲得率を残せているのは大きい。
上背もなく(170cm)サービスの速度も早くない(むしろ遅い部類)タイプでの5割超えは素晴らしい。
というか、1stの確率が7割なので、セカンドのほうがポイントが獲得できていることになるな、すごいぞケニン。
ちなみに全豪での2ndのポイント獲得率は、5本未満のラリーの場合は低く、5本以上ラリーが続いた場合が高いです。
2ndでも長いラリーに持ち込めばポイントが取れているということになるケニン。
そのためにはウィナー級のリターンを打たれないことが大事。それをケニンは2ndの速度の変化で対処していますように見えます。
全豪決勝のサーブの平均速度をみると、
1stサーブ平均速度 2ndサーブ平均速度
ケニン 153km 144km
ムグルサ 160km 138km
となり、1stと2ndで逆転しています。
これは準々決勝のジャバー戦でも同様です。
そして、この平均速度も安定して140km台を打つのではなく、150km台のダブルファーストに近いものから120km台の回転系のものなど速度の変化を大きくしています。
これによって、ウィナー級のリターンを打たれにくい2ndを実現し、得意の長いラリーに持ち込むことが出来ていると考えられます。
続いてリターンゲームのスタッツを見てみると、
○リターン系
2019 2020
1st Return Points Won 33.4%→32.2%
2nd Return Points Won 57.5%→55.2%
Break Points Converted 45.4%→47.5%
Return games Won 34.3%→32.2%
リターンスタッツは下がっています。
しかし、これは分母が少ない中でバーティ、ムグルサ、ジャバー、ガウフ、大坂などサーブが強みの選手と当たっていたわけなので、むしろこの程度の微減に収まっていれば昨年と同レベルもしくは昨年以上あると考えることもできるしょう。
以上をまとめると、今年のケニンは
「昨年と同程度のリターンゲームのクオリティを維持しつつ、サービスゲームのクオリティを上げた」
と言えるでしょう。
ではケニンはこのテニスでナンバーワンとなれるでしょうか。
これを前回の記事の内容を用いて考えてみます。
tennisandlespen.hatenablog.com
前回の分析での仮説として、「安定したリターン力が今季のトレンドである」と書きました。
ではケニンのリターン力はどうでしょう。
ケニンの今季のリターンの成績のトップ10内での順位をカッコで示します。
2020
1st Return Points Won 32.2% (8位)
2nd Return Points Won 55.2%(6位)
Break Points Converted 47.5%(4位)
Return games Won 32.2%(6位)
リターンは相手によるところも大きいので、シーズン初めの10試合程度では確実とは言えませんが、少なくとも圧倒的なリターンスタッツではありません。
となると、サーブの調子が悪いor組み立てを読まれて叩かれる、という局面が増えていくとケニンが安定して勝ち続けることは難しいというマイナスの予想が見えてきます。
一方、全豪のデータを見るとケニンはサービスゲーム、リターンゲームを問わず長いラリー戦で髙いポイント獲得率を誇っていることから、サーブ不調でもとりあえずラリーにさえ持ち込めばなんとかなる、というスーパーラリーモードに入っている限りは勝ち続けるかもしれません。
ただ、長いラリー頼みとなるとどうしても体力の問題にぶち当たるため、一年を通して安定して勝ち続けられるかは少し疑問です。
以上をまとめた私の意見は、
「現在の力のケニンでは安定したナンバーワンとはならない」
といことにさせていただきたいと思います。
個人的には、こういう強いメンタリティの選手は好きなんだけれど、そういう選手が勝ち続けるかっていうと難しいよね。
もう少しフリーポイントが増えれば化けそうな気もするし、何よりメンタルの方向性が完成されているのが強み。
まだ若いので、これからの変化にも注目していきたい選手ですね。
WTA 2020シーズン序盤におけるトレンド分析(1stset編)2020/2/22補正
現在のWTAの上位レベルにおいて、勝敗に最も影響するスキルは何なのか、検証したいと思います。
対象とした大会は1月の大会から全豪を除いた大会。これは全豪はWTAの公式ホームページでスタッツが表示されないためです。
全豪のホームページを見れば一応スタッツは確認できるが、他の試合と比べグランドスラムではコーチングの禁止やプレッシャーの増大など他の大会と比べ異なる要素が多いため除外とすることにします。
分析手法はロジット分析。非説明変数は今回は手始めに1stsetの勝敗。
説明変数としては、世界ランク、年齢などの調整変数や、当該試合のスタッツ、そして前年度のスタッツを使用します。
その結果、興味深い結果となりました。
まず、有意となった変数を羅列すると、
前シーズン系
1、1stサーブリターン率 (7.8%)
2、2ndサーブリターン率 (7.1%)
3,ブレークポイントロスト率 (-5.8%)
当日のスタッツ
1、1stサーブポイント獲得率 (4.4%)
2、2ndサーブポイント獲得率 (3.1%)
3、ブレークポイントセーブ率 (0.3%)
その他
1、直近に勝った相手のレーティング(Tennis Abstract: WTA Elo Ratings) (0.1%)
となります。
なお、右側の数字は相手よりもその数値が1上回っていた場合に1stset勝率が上昇(または下降)する割合である。
つまり、数値の大きさはそのまま1stsetの勝敗への影響力の大きさとなります。
では、この数値を少し考えてみたいと思います。
①当日と前シーズンの違い
まず、はっきりとした違いが出るのが、当日はサーブ系、前シーズンはリターン系のスタッツが有意になったということ。
ここから次のような説明ができると考えられます。
すなわち、1stsetにおいてはリターン力がスタッツ以上の効果を有するということです。
当日のスタッツが影響するのは、ある意味当然というか、「サーブのスタッツが良ければ勝利に近づく」という流れは説明するまでもないと思います。
しかし、今回の結果からは、リターン力が安定してある選手は1stsetにおいてサーブスタッツに吸収されない効果があるということになります。
これを説明するのは少し難しいですが、考えてみましょう。
まず、試合の序盤は互いに相手の情報を事前に調べてから試合に望むと考えられます。
特にリターンに優れている選手は、相手の得意サーブについてどのように対応するかをしっかり対策していると考えられます。
そして、そのような研究の効果が発揮されやすいのが重要なポイント、すなわち、セットの勝敗がかかるポイントということになると考えられます。
なぜなら、プレイヤーとしては最もポイントが欲しいときには一番得意なサーブ選択をしやすいと考えられますし、それは逆に言えば最も読みやすいサーブであるとも言えるからです。
とするならば、リターンに優れている選手はブレークが狙えるポイントで効率よくポイントを奪っている可能性があり、これはスタッツには現れてこないリターン力であると言えるのではないでしょうか。
この推論は前シーズンのブレークポイントロスト率が低い選手のほうが1stsetをとっているという上記結果からも補強できるものであり、一定の説明力を有しているのかなと思います。
ただ、重要なポイントとはブレークポイントに限られないと思われるので(0-30の場合や重要なゲームの最初のポイントなど)この点が他のスタッツに現れてこない部分であるように思います。
②強さ指標について
今回の分析では世界ランクやレーティングといった変数は全く有意になりませんでした。これは同様の分析を男子で行った場合はどちらも有意になったことを踏まえると驚くべきことです。
つまり、WTAの世界ランクは1stset勝利率にほとんど影響しない
と考えることができるのです。
これは女子が男子に比べて中・長期間、安定して勝ち続けていないということを表していると説明することができそうです。
基本的にその選手の強さを測る事情として
長期→世界ランク
中期→ELO等のレーティング
短期→直近及び当日の指標
世界ランクは過去一年のポイント獲得数であることから長期的な強さを表しやすく、「誰に勝ったか」を重視していくELOは世界ランクよりも短いスパンでの強さがわかりやすいです。
今回の分析結果を踏まえると、WTAの1stsetにおいては、上記の「長期」の事情はほぼ影響していないといえます。
つまり、WTAでは近年長期に渡って安定して勝っている選手があまりおらず、ランクの変動が激しいことから、世界ランクが強さの指標としてはあまり機能していないといえると考えられます。
今回、このような強さ関係の指標の中で唯一、有意となった変数は
直近に勝った相手のレーティング
のみです。
これも、選手本人のレーティングは有意にならないというおかしな結果となりました。
この結果を説明するのはちょっと難しいですが、結論だけ示すなら、
WTAでは直前に戦った相手の能力が高いほど次戦の1stsetを取得しやすくなる
ということになります。
これはいろいろな説明ができそうな気がしますが、思いついたところでは
①強い選手に勝ったのだから強い
②強い選手のボールに慣れることができる
といったところが考えられて、どちらか一つの説明に収斂するというわけでもなさそうです。
ただ、指標の説明としては、レーティングという中期の指標をさらに直前に勝った相手という短期的な選択にすることによって、より当日に有効な指標になったのではないかと考えることが出来ます。
何れにせよ、
今のWTAでは長期的な強さから当日の1stsetの勝敗を予測するのは難しい
ということになるのではないでしょうか。
テニス観戦者サイドからしてみれば、蓋を開けてみるまでその日の結果がわからないというハラハラ感はATPに比べてWTAのが大きくなる、ということでそれなりに見る楽しみがあるとも言えます。(応援している選手が安定して勝たないとも言える)
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以上の結果から2020の1stsetのトレンドを考えると、
高いリターンスタッツ力を有し、直近で高いレーティングの選手に勝っている選手が有利
ということになるでしょうか。
感想をいうと、WTAの1stsetのを見る際には世界ランクの上下よりも、どのようなリターンスタッツを残しているかに注目し、どのようなリターン戦略をもって試合に望んでいるかに注目しようと思いました。
リターンの上手い選手は多彩なリターンを打つことも多いので、その点にも注目してくと面白いなぁと感じますしね。
→2ndsetについてはこちら
tennisandlespen.hatenablog.com