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WTA 2020シーズン序盤におけるトレンド分析(1stset編)2020/2/22補正

現在のWTAの上位レベルにおいて、勝敗に最も影響するスキルは何なのか、検証したいと思います。

 

対象とした大会は1月の大会から全豪を除いた大会。これは全豪はWTAの公式ホームページでスタッツが表示されないためです。

全豪のホームページを見れば一応スタッツは確認できるが、他の試合と比べグランドスラムではコーチングの禁止やプレッシャーの増大など他の大会と比べ異なる要素が多いため除外とすることにします。

 

分析手法はロジット分析。非説明変数は今回は手始めに1stsetの勝敗。

説明変数としては、世界ランク、年齢などの調整変数や、当該試合のスタッツ、そして前年度のスタッツを使用します。

 

その結果、興味深い結果となりました。

まず、有意となった変数を羅列すると、

前シーズン系

 1、1stサーブリターン率  (7.8%)

 2、2ndサーブリターン率  (7.1%)

 3,ブレークポイントロスト率  (-5.8%)

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当日のスタッツ

 1、1stサーブポイント獲得率  (4.4%)

 2、2ndサーブポイント獲得率  (3.1%)

 3、ブレークポイントセーブ率  (0.3%)

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その他

 1、直近に勝った相手のレーティング(Tennis Abstract: WTA Elo Ratings)  (0.1%)

 となります。

なお、右側の数字は相手よりもその数値が1上回っていた場合に1stset勝率が上昇(または下降)する割合である。

つまり、数値の大きさはそのまま1stsetの勝敗への影響力の大きさとなります。

 

では、この数値を少し考えてみたいと思います。

 

①当日と前シーズンの違い

まず、はっきりとした違いが出るのが、当日はサーブ系、前シーズンはリターン系のスタッツが有意になったということ。

ここから次のような説明ができると考えられます。

すなわち、1stsetにおいてはリターン力がスタッツ以上の効果を有するということです。

当日のスタッツが影響するのは、ある意味当然というか、「サーブのスタッツが良ければ勝利に近づく」という流れは説明するまでもないと思います。

しかし、今回の結果からは、リターン力が安定してある選手は1stsetにおいてサーブスタッツに吸収されない効果があるということになります。

これを説明するのは少し難しいですが、考えてみましょう。

 

まず、試合の序盤は互いに相手の情報を事前に調べてから試合に望むと考えられます。

特にリターンに優れている選手は、相手の得意サーブについてどのように対応するかをしっかり対策していると考えられます。

 

そして、そのような研究の効果が発揮されやすいのが重要なポイント、すなわち、セットの勝敗がかかるポイントということになると考えられます。

なぜなら、プレイヤーとしては最もポイントが欲しいときには一番得意なサーブ選択をしやすいと考えられますし、それは逆に言えば最も読みやすいサーブであるとも言えるからです。

とするならば、リターンに優れている選手はブレークが狙えるポイントで効率よくポイントを奪っている可能性があり、これはスタッツには現れてこないリターン力であると言えるのではないでしょうか

 

この推論は前シーズンのブレークポイントロスト率が低い選手のほうが1stsetをとっているという上記結果からも補強できるものであり、一定の説明力を有しているのかなと思います。

ただ、重要なポイントとはブレークポイントに限られないと思われるので(0-30の場合や重要なゲームの最初のポイントなど)この点が他のスタッツに現れてこない部分であるように思います。

 

 ②強さ指標について

今回の分析では世界ランクやレーティングといった変数は全く有意になりませんでした。これは同様の分析を男子で行った場合はどちらも有意になったことを踏まえると驚くべきことです。

つまり、WTAの世界ランクは1stset勝利率にほとんど影響しない

と考えることができるのです。

 

これは女子が男子に比べて中・長期間、安定して勝ち続けていないということを表していると説明することができそうです。

 

基本的にその選手の強さを測る事情として

長期→世界ランク

中期→ELO等のレーティング

短期→直近及び当日の指標

世界ランクは過去一年のポイント獲得数であることから長期的な強さを表しやすく、「誰に勝ったか」を重視していくELOは世界ランクよりも短いスパンでの強さがわかりやすいです。

今回の分析結果を踏まえると、WTAの1stsetにおいては、上記の「長期」の事情はほぼ影響していないといえます。

つまり、WTAでは近年長期に渡って安定して勝っている選手があまりおらず、ランクの変動が激しいことから、世界ランクが強さの指標としてはあまり機能していないといえると考えられます。

 

今回、このような強さ関係の指標の中で唯一、有意となった変数は

直近に勝った相手のレーティング

のみです。

これも、選手本人のレーティングは有意にならないというおかしな結果となりました。

この結果を説明するのはちょっと難しいですが、結論だけ示すなら、

WTAでは直前に戦った相手の能力が高いほど次戦の1stsetを取得しやすくなる

ということになります。

これはいろいろな説明ができそうな気がしますが、思いついたところでは

 

①強い選手に勝ったのだから強い

②強い選手のボールに慣れることができる

 

といったところが考えられて、どちらか一つの説明に収斂するというわけでもなさそうです。

 

ただ、指標の説明としては、レーティングという中期の指標をさらに直前に勝った相手という短期的な選択にすることによって、より当日に有効な指標になったのではないかと考えることが出来ます。

 

何れにせよ、

今のWTAでは長期的な強さから当日の1stsetの勝敗を予測するのは難しい

ということになるのではないでしょうか。

 

テニス観戦者サイドからしてみれば、蓋を開けてみるまでその日の結果がわからないというハラハラ感はATPに比べてWTAのが大きくなる、ということでそれなりに見る楽しみがあるとも言えます。(応援している選手が安定して勝たないとも言える)

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以上の結果から2020の1stsetのトレンドを考えると、

高いリターンスタッツ力を有し、直近で高いレーティングの選手に勝っている選手が有利

ということになるでしょうか。

 

 

感想をいうと、WTAの1stsetのを見る際には世界ランクの上下よりも、どのようなリターンスタッツを残しているかに注目し、どのようなリターン戦略をもって試合に望んでいるかに注目しようと思いました。

 

リターンの上手い選手は多彩なリターンを打つことも多いので、その点にも注目してくと面白いなぁと感じますしね。

 

→2ndsetについてはこちら

tennisandlespen.hatenablog.com